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1068 アクション課題 No.1「殺し屋の笑み」
2004/8/22(日)21:56 - 津荒 夕介 - 1041 hit(s)

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 No.1「殺し屋の笑み」                         津荒夕介




 ところどころ汚れた作業着を着た青年――シロウは、ぼろマンションにいた。作業着の背中には、マンション管理会社の名前が英語で書かれている。長めの道具箱を片手に、302の前で立ち止まった。
 軽くノックして、
「すいません。水道管の工事に来た者ですが」
 返事はない。
 もう一度ノックしようとすると、ドアが動いた。スキンヘッドでマッチョな白人がチェーンロックを外して部屋から出てくる。
 シロウは気おされたように弱々しく笑いながら、二歩下がった。
「よう、にーちゃん」
 スキンヘッドは唇を歪めて、言った。
「俺は水道管工事なんて頼んだ覚えねぇなぁ。なんかの間違いじゃ、ねぇのか?」
「はぁ……しかし、会社からはここだと……。あ、そうだ、これ伝票です」
 シロウが出した伝票を男は素早く奪い取る。そして破いてしまった。
「おっと、これで仕事は無し……だよな?」
「は、はぁ……」
「帰れっつってんだよ。それとも痛い目にあいたいのか?」
「い、いえ、滅相もない、です」
 シロウは更に三歩後ずさった。
「っち……」
 唾を吐いて、男はシロウに背を向け。
 それと同時に、シロウは動いた。
 右手に持っていた道具箱を、振り上げ――
「ぐっ!」
 スキンヘッドを潰した。
 そのまま宙に浮く道具箱のフタを開けた。そこから現れたのは、四角いフォルムのマシンガン。銃だけを取りだし、ストックを脇に、ドアに狙いを定めた。
 廊下に道具箱の派手な落下音が響く。
「どうしたぁ!」
 片手に拳銃を持った眼鏡の男が、ドアを開ける。
 ツタタタタタ!
 音と共に、男の胸に穴が開いた。彼は眼鏡を落とし、ドアを血で汚しながら動かなくなる。
 だが、シロウは眼鏡の男など見ていない。
 空薬莢を廊下に撒き散らしながら、続けざまに部屋に立っていた男二人を、撃つ。
 壁に穴が開き、ブラインダーが跳ねる。ソファや机の破片が飛び散った。
 すばやく弾を補充して、牽制のため軽く撃ってから、シロウは部屋に駆けこんだ。
 壁に半身を隠しながら、部屋の奥を撃つ。
 ……が、誰もいない。
(人質は隣か)
 シロウは隣部屋へとつながるドアの横に走って、壁に肩をつけながらドアを開けた。
 銃撃は無かった。かわりに声が聞こえた。
「動くな! おい! こっちにはアロンがいるんだぞ!」
 アロンとは人質の名前。シロウはマシンガンを構えながら、隣の部屋に入った。
 ベッドの横に立つ男二人に、すぐさま照準を合わせる。
「撃つなよっ!」
 敵は、人質のデブを盾に立っていた。拳銃をアロンの頭に着きつけている。人質は猿ぐつわをかまされていて、閉じたまぶたに涙をためていた。
「ふぅ……。いいか……お前は今すぐこのマンションから出ろ。そこの窓からお前が出て行ったのを確認したら、このデブを解放してやる」
 シロウは笑った。それは勝者が敗者に向けるあわれみの笑顔と、同じ物に見えた。
「その提案は、遠慮しときます」
「……っな!」
「前提が狂ってるんですよ。ボクはあなたがアロンを殺す前に、あなたを殺せます。だから人質には価値が発生しない」
「……うう?」
 シロウの反応に、敵は混乱したようだった。
 しばらくだまりこみ、唾を飲み込んでから、口を開く。
「試して……みるか?」
「いいですとも! ボクの正しさが証明されるだけですけどね」
「う……」
 男は大きく息を吸い込み、
「ああああああ!」
 銃口を、アロンからシロウに向けようとして――
 ツタタタッ
 額から血を垂れ流し、崩れ落ちた。
「ふうっ! ふうっ、ふぅー!」
 解放されたアロンは、四つんばいでシロウの元へとやってきた。猿ぐつわを自分で外し、彼の足元に座り込む。
「あ、ありがとうよぅシロウ。たすかったぁぜ……」
「礼を言われる筋合いはありませんよ」
「あ、ああぁ。そうか、そうだな。お前程の腕利きをやとってくれたボスに感謝しねぇと」
「それもまた、見当違いですねぇ」
 シロウは白い歯を見せながら、クツクツ笑った。
「アロンさん、アロンさん! ボクが本当にあの男が引き金を引くより速く、あなたを救えると思います?」
「……そ、そうじゃないのか?」
「あー……。あったま悪いですねぇ。無理に決まってますよ。アロンさんの命なんてどうでもいいから、言えたセリフなんじゃないですか」
「あ……え?」
 シロウはマシンガンをアロンに、向ける。
「アロンさんはボスに嫌われたんです。それでは、ごきげんよう」
 そうしてシロウは、引き金を引いた。
 荒らした部屋を歩き、外に向かいながら、シロウは携帯電話を取り出した。この街を掌握するアロンのボスに、依頼完了の報告をするためだった。
 
 
 


〔ツリー構成〕

【1067】 アクション課題の根っこ 2004/8/22(日)21:36 津荒 夕介 (6)
┣【1068】 アクション課題 No.1「殺し屋の笑み」 2004/8/22(日)21:56 津荒 夕介 (3906)
┣【1090】 アクション課題No.2 「砲丸」 九月九日 津荒夕介 2004/9/9(木)03:17 津荒 夕介 (2146)
┣【1096】 アクション課題No.2 「砲丸」の直し 九月十五日 津荒夕介 2004/9/15(水)02:52 津荒 夕介 (1886)

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