1090 アクション課題No.2 「砲丸」 九月九日 津荒夕介 |
アクション課題No.2 砲丸
九月九日 津荒夕介
陸上競技場では高校生の地区予選が開かれていた。色とりどりのユニフォームを着た選手たちが、トラックを走っている。
二年生の笠原は、砲丸投げの砂場を眺めていた。彼はもうすぐ始まる砲丸投げに挑む選手だ。ユニフォームを押し上げる胸板を持つ彼は、県大会入選確定と言われている。
「かっさはらー!」と、客席から応援が聞こえる。
笠原が観客席を見ると、応援は部活の仲間たちからだった。他の選手の応援もあったが笠原への応援に圧倒されている。
彼は四角い顔を笑顔にして、手を振って応えた。
測定が始まる。
笠原は前から四番目だった。もちろん体は十分にほぐれている。
首を鳴らしながら、転がっている砲丸を右手でつかむ。さらさらした感触を指に感じながら、順番待ちの列に並んだ。
砲丸を落として、設置されている石灰を手につける。手のひらを叩いて余分な石灰を落とした。白い粉が舞った。
三人目が投げ終えた。次は笠原の番だ。
砲丸を右手にぶら下げて、投擲サークルの中に入る。砂場の反対側ラインいっぱいに立ち、砂場を背にして背筋をのばす。その顔に、先ほどの笑顔は微塵もない。
「砲丸いきます!」
笠原は大声で宣言して、砲丸を空に向かって突き上げる。
砲丸をゆっくりと降ろし、首につけて目を閉じた。大きく息を吸いこみ――止める。
カッと目を開く。
そこからの動きは、まさに一瞬だった。
上半身を前に倒し、地面と水平にする。右足を軸に左足をのばし、戻す。
ぎゅっと体を縮めて――解放。右足で後ろ向きに跳んだ。
笠原はサークルの半分まで右足を運んだ。左足はサークルの端についている。
いままでの移動で作られた力を、右足に乗せる。ふくらはぎの筋肉が盛り上がる。力強く地面を蹴った。
続けて、流れるように動く。胸を持ち上げながら、腰を捻った。全く力を殺さない。
体が砂場に向く。青空を睨んだ。
「ダァ!」
気迫と共に、腕に力を入れ、砲丸を撃ち出した。
おお――
他の選手たちの、思わず出した声が聞こえる。
砲丸は大きな半円をえがいて、砂場にぼすっと埋まった。
笠原は小さな笑みを唇の端に浮かべ、サークルを出た。記録委員が投擲成功の旗を降る。計測員が砲丸に走った。
記録十五メートルがコールされた。インターハイでも通用する記録だ。
「まずまず……だな」
ふと仲間たちの声援に気づく。
「さてと。次は大会記録、更新しようか」
客席に手を振りながら、ニヤリと笑うのだった。
砲丸を投げる動作が、アクションです。
〔ツリー構成〕
【1067】 アクション課題の根っこ 2004/8/22(日)21:36 津荒 夕介 (6) |
┣【1068】 アクション課題 No.1「殺し屋の笑み」 2004/8/22(日)21:56 津荒 夕介 (3906) |
┣【1090】 アクション課題No.2 「砲丸」 九月九日 津荒夕介 2004/9/9(木)03:17 津荒 夕介 (2146) |
┣【1096】 アクション課題No.2 「砲丸」の直し 九月十五日 津荒夕介 2004/9/15(水)02:52 津荒 夕介 (1886) |
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