1096 アクション課題No.2 「砲丸」の直し 九月十五日 津荒夕介 |
アクション課題No.2 「砲丸」の直し
九月十五日 津荒夕介
陸上競技場では高校生の地区予選が開かれていた。色とりどりのユニフォームを着た選手たちが、トラックを走っている。
二年生の笠原は砲丸が落ちる砂場を眺めていた。彼はもうすぐ始まる砲丸投げに挑む選手だ。ユニフォームを押し上げる胸板を持つ彼は、県大会入選確定と言われる実力者だ。
「かっさはらー! ファイットー!」
客席からの応援が聞こえ始めた。
笠原は観客席の方を見る。応援しているのは部活の仲間たち。他の選手へ応援を圧倒している。
彼は四角い顔を笑顔にして、手を振って応えた。
測定が始まった。
笠原は四番目だ。準備は万端。体は十分にほぐれている。
首を鳴らしながら、転がっている砲丸を右手でつかむ。さらさらした感触を指に感じながら、順番待ちの列に並んだ。
砲丸を落として設置されている石灰を手につける。手を叩いて余分な石灰を落とした。ぶわっと白い粉が舞った。
三人目が投げ終えた。次が笠原の番だ。
右手に砲丸をぶら下げて投擲サークルの中に入る。砂場から一番離れた円の端に立ち、砂場に背を向けた。
足の指で地面を踏みしめて、大きく空気を吸いこむ。ユニフォームがはちきれんばかりになった。息をゆっくりと吐き出す。儀式を終えた彼の顔は選手になっていた。
「砲丸、いきます!」
笠原は大声で宣言して砲丸を首に当てると、上半身を前にすっと倒す。右足を軸に左足を伸縮させ、その力で後ろに地面を擦るように跳んだ。
着地と同時に腰を捻りつつ上半身を持ち上げる。
右足で大地を叩き踏んだ。体が宙に浮く。右腕の筋肉が盛り上がり――
「ッダァ!」
気迫と共に砲丸を撃ち出した。
おお――。
他の選手たちが思わず声を出してしまう。
砲丸は砂場の上に大きな弧をえがき、ぼすっと埋まった。
笠原は唇の端に小さな笑みを浮かべて、サークルを出た。審判が投擲成功の旗を上げる。計測員が砲丸に走った。
記録十五メートルがコールされた。インターハイにも通用する記録だ。
笠原は頷くだけだ。
待機選手用のテントに向かおうとして、ふと仲間たちの声援に気づいた。
「さて……。次は大会記録更新かね」
客席に手を振りながら、ニヤリと笑うのだった。
〔ツリー構成〕
【1067】 アクション課題の根っこ 2004/8/22(日)21:36 津荒 夕介 (6) |
┣【1068】 アクション課題 No.1「殺し屋の笑み」 2004/8/22(日)21:56 津荒 夕介 (3906) |
┣【1090】 アクション課題No.2 「砲丸」 九月九日 津荒夕介 2004/9/9(木)03:17 津荒 夕介 (2146) |
┣【1096】 アクション課題No.2 「砲丸」の直し 九月十五日 津荒夕介 2004/9/15(水)02:52 津荒 夕介 (1886) |
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