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1108 俺と高野美咲の、なんつーかすげー言い難い関係 |
2004/10/1(金)12:38 - 月白 - 3205 hit(s)
俺と高野美咲の、なんつーかすげー言い難い関係
俺の名は、都築聡一郎。私立彩雲学園に通う何の変哲もない高校生……のはずだったのだが、何の因果か三年生なったこの四月から、いろいろあって幼友達のいるこの高野一家にお世話になっている。
高野家は閑静な住宅街に位置する新築の一軒家で、毎朝その二階の一室をノックして朝食を知らせるのが俺の日課となっていた、もとい、日課とさせられていた。
「どうぞ」
いつもどおりの流麗な声に促されてしぶしぶと、俺は扉を開く。と、下ろしたてのような青のブレサーをまとったロングヘアの美少女が、鏡台に向かって身なりを整えていた。
こいつだ、こいつ。俺の気分を毎日暗澹たるものにしている元凶。
高野美咲、十八歳。
俺と同じ彩雲学園に通う、俺の幼馴染だ。
こいつは、昔は泣き虫の弱虫で、何かにつけて俺の後ろに隠れて回っていたりしたのだが……、
「あら聡一郎」
アーモンド形の瞳に綺麗な弧の唇という、端整な美人顔をこちらに向けて、滑らかな声を響かせてくる。
「もう少し早ければ、起き掛けに一回、楽しめたのに」
「起き掛けに一回じゃねえ!」
俺は思わず叫び返していた。
「お前、なんつーか、乙女の恥じらいとか女の貞淑ってやつはないのかっ! 毎日毎日、年頃の女子高生が発情したメス犬のように俺に要求しやがって!」
「あら、聡一郎は楽しくないの? 私とするの?」
「程度問題なんだよっ! 俺はお前専用の種馬肉奴隷じゃないんだよっ!」
「一つ屋根の下に住んでいる男女が肉体関係を持つのは、当然のことだと思うけれど」
ふふっと、サキュバスのように薄く笑ったこの女は、通っている彩雲学園のアイドル的存在で、三年になった今年の四月からは生徒会長もやっている。正体隠しまくっているわりにそれがばれてもなくて、美人で聡明・優しい性格で通っていたりするから、世の中どうにかしている。
その麗しの学園のマドンナに、
「とにかく朝食だ。伝えたからな」
そう言って扉を閉めようとすると、
「聡一郎。あなた、クラスメートの子に告白されたんですって?」
さらりとした美咲の言葉に、いきなり心臓を鷲づかみにされた。
ぐうっと思わずうめく。
「だめよ、あの娘は」
言ってくる美咲に、
「な、なんでお前に……そんなこと言われなきゃならないんだ!」
冷や汗と動悸と息切れでどうにかなりそうになりながらも、弾けるように答えると、
「あなたのきれいな鎖骨から引き締まった胸にかけての筋肉。腰のくびれと肉感的な太もも。そして何より、男を象徴するペ○ス。あなたのアレは、いいものよ。見かけだけじゃなくて、太さ長さエラの張り具合とかがちょうど私のにフィットする感じで気に入ってるの」
美咲は、ごく普通に話しているという感じで、とんでもない台詞を吐いてくる。
「でも私も鬼じゃないから、さんざんしゃぶりつくして、あなたが干からびたミイラみたいになったらあの娘に譲ってあげてもいいわよ」
目を細めて、悪魔のように唇を丸める。
(くそっ)
俺は胸中で毒づきながら扉を叩きつけ、ダイニングに下りた。
その後、美咲もやってきて、二人で並んで食事を始める。と、
「今日、母さんと父さん仕事で帰ってこないから、家のことお願いね、美咲」
いきなり美咲の母さんがそう言ってきた。
美咲は、顔色一つ変えずにしずしず『ええ』と、返事をする。が、俺はその美咲がテーブルの下でぐっと拳を握るのを見逃さなかった。くそっ。前回は逃げ回って何とか餌食となるのは避けたが、今回も逃げおおせられるという自信はない。性欲に底がないようなこいつに付き合っていたら、ほんとうにミイラになってしまう。そんなことを思うと、胸の中にどんどん暗雲が立ち込めてくる。今日は朝からついてない。今日は格別陰鬱な日だ。
やがて朝食を終え、対外的には近しい親戚ということになっている俺と美咲は、一緒に家を出る。
十五分程度歩いて、学園にたどりつく頃になると、
「高野先輩、おはようございます!」
「高野さん、おはよう」
学生連中が挨拶しながら、並んでゆっくりと歩く俺たちを通り越してゆく。
隣の美咲は、朗らかに返事をして手をふったりしている。
この口から「オ○○○ンとか、ファ○ク」とかいう言葉がぽんぽん飛び出すのだと思うと、俺は、俺は、
「この女は違うんだお前ら全員だまされているんだこいつは魔女でサキュバスでお前ら視姦されながら知らず知らずのうちにちゅーちゅーと若いエキスを吸われているんだお前ら俺の魂の声を聞け!」
って叫びたくなるが、こいつらは俺よりもこの女のいうことを信じそうだし、あとの美咲の報復もこわいので、それは一度もやってない。
続けて、お決まりの朝礼が始まる。
生徒会長の美咲が、今週の目標をいつもどおりの滑らかな声で朗読する。
男子学生たちの多くは、この美人でいながら尖ったところを少しも感じさせない生徒会長の朗読姿を、退屈な朝会中の唯一の楽しみにしている。
お前ら知ってるか? あの端整な美人顔で壇上に立っているくそ女は、以前、『ローター入れながら挨拶ってのやってみたいから、私が壇上で我慢できそうにない様子を見せたら、心配した様子で駆け寄ってきて格別のことはないって様子で私を保健室に連れていってもらえる』とかぬかしてきやがったんだぞ。むろん、きっぱり断ったが。
そんな朝礼も終わるが、俺の難儀は終わらない。今度は午前中一杯かけて、男子便所と男子更衣室に仕掛けておいた盗撮ビデオのデータディスク回収だ。ふらふらになりながら、昼休みになるころにやっとそれを終えて生徒会室に入ると、美咲が待っていて、取ってきた映像をチェックし始める。
その美咲が、
「全然映ってないわね。聡一郎、きちんと仕事してくれないと困るわ」
残念そうに表情を曇らせて、ふぅと乙女のため息をついたりするのだからたまらない。
さらに美咲は椅子の上に丸まる。膝を抱えて、股間に手をあて……んっ、と眉を震わせながら声を漏らし……って、
「ちょっと待て!」
俺は我慢できずに声を上げた。
「あら、聡一郎。私としたいのなら言ってくれればいいのに」
平然と言ってくる美咲に、
「そういうこっちゃないんだよっ!」
俺は言葉を叩きつけてから、頭を抱えた。
放課後は写真部室で、そこの部長と美咲と『御付』の俺の三人で密会だ。
写真部部長は小柄で狡猾そうなメガネ男だが、見かけのとおりほんとうに狡猾で、さすがの美咲ですら押され気味のときが多かったりする。
そのメガネが、何枚かの写真を取り出して美咲に渡した。
美咲はそれを受け取り、一枚一枚味わうように眺める。それに従って、美咲の目に笑みが宿り口元が丸まってゆく。後、今度は美咲からメガネに別の写真数枚を渡した。
メガネは、もらった写真に素早く目を通した後、平然と言う。
「質、落ちたんじゃない?」
ぴくっ。
瞬間的に美咲の目が鋭く細まりほほが震える。が、美咲はすぐに表情をやんわりとした笑みに変えながら、
「そうかしら? 柔らかなピンナップ風でいいと思うのだけど」
答えた。が、メガネは、
「ええとね」
素人に諭すといった調子で言ってくる。
「客は飽きるんよ。常に新しい刺激がないとダメなの」
「じゃあこの前のように、ちょっとだけ下着の見えているものとか……」
美咲が恥らっているという様子で提案すると、
「だ・か・ら。その程度のものは、『俺の客』ほどになれば既に持ってるっつーの。今さらパンチラ写真をもらっても、ねぇ」
メガネは、ふぅと息をつき、あきれたという様子で両手を広げる。続けて、
「この取引、なかったことに……」
そう台詞を発したメガネに、
「ちょ、ちょっと……」
慌てて美咲が言葉を挟む。
それは困る、と美咲の顔が言っている。このメガネ男の写真は、美咲の楽しみの一つであり、美咲の女としての栄養源でもあるのだ。それを断たれるわけにもいかない美咲が、
「じゃあ写真の代わりに、あなたにキスとかしてあげるから……」
そう言うと、メガネは興味なさそうにじっと美咲を見、それから美咲の股間に目をあてて、
「がばがば、だろ?」
言い放った。
ぶちいっ!
瞬間、音が聞こえるように顔中の筋肉を吊り上げた美咲が、メガネの胸倉をつかみ上げる。
「失礼ねっ! 私のは、入り口が広い割に中はすぼまってて、男の人のもの全部を暖かく包み込むようで絶品なの! ひだひだの感触なんかもざらざらってオ○○○ンをすごく刺激して、締まりもいいから中で何回でもイケるのよっ! 聡一郎に聞いてみなさいよっ! 私の、絶品だっていうからっ!」
胡散臭そうな、信じてないような、メガネの顔。
「ならここで、聡一郎と実演してみせるわよっ! どんなに私のがイイのかって!」
美咲は声をぶちまけて、制服を脱ぎ始める。
「ほらっ、聡一郎もぐずぐずしてないで脱ぎなさいっ! 私の中で聡一郎がイキまくるところ、見せつけてあげるからっ!」
もう、勘弁してくれ。
俺は思うが、感情の高ぶった美咲はそう簡単に言うことを聞きそうになくて……。
そんなこんなで、癇癪を起こした美咲がスルだのシナイだのと騒いだが、なんとか取引は『美咲の写真+現金』ということで落ち着いたのだった。
空が赤く染まって、その中を美咲と一緒に下校している。
今日も一日振り回されて散々な日だった、そんなことを思っていると、隣の美咲が、
「ねえ」
寄りかかってくるような音色で、俺に声をかけてきた。
「昔のこと、覚えてる」
懐かしいという口ぶりで、言葉を続けてくる。
「昔のこと……?」
俺が聞き返すと、
「そう。こんな陽の綺麗な夕方。近所の悪ガキたちにつかまっていじめられていた私を、聡一郎、傷だらけになりながら助けてくれたじゃない」
「ああ、あれか……」
俺も思い出す。
いつも引っ込み事案の美咲を『絞めよう』という感じで、悪童たちが美咲を捕まえたことがあったのだ。
「あのとき、私、決めたの。今は聡一郎に守ってもらうしかないくらい弱い私だけれど、大きくなったらきっと強くなって聡一郎のことぐいぐい引っ張れるような女の子になろうって」
隣の美咲が、腕を絡めてきた。
その美咲の顔を見ると、すごく柔らかくて優しくて安らいでいるような表情。こいつ、こんな綺麗な顔してたっけ、俺は思わず胸がドキンとしてしまう。
俺が自然と美咲の肩に手をまわし、美咲が俺に身体を預けるようにしてくる。
「ねえ、聡一郎……」
美咲がささやくように言ってきた。
「私、男は大好きだけど、実際にヤってるのは聡一郎だけなのよ。だから……これからもずっと私のそばにいれくれる?」
「ああ……」
俺は優しく答えた。
やっぱりこいつは、あの、弱くて泣き虫の美咲なのだ。表面をいくら取り繕っても、大人びた女の嗜好を示しても、中身はあの小さい頃に俺の背に隠れて周っていた美咲なのだ。
と、美咲がにっこりした表情で俺の顔を覗き込んでくる。
「なら、今日は一晩中寝かせないから」
(しまったああああああ――っ!)
俺は胸中で叫び声を上げる。
思い出した! 今晩は、美咲の両親が帰ってこないのだ!
そんな俺の胸中を知ってか知らずか、
「これからが、今日のメインイベントよ。夕食は、うなぎにすっぽん、ニラレバ炒めにニンニクジュース。この前手に入れた長強力な誘淫剤ってのも試してみたいし、買ってきたばかりのボンデージスーツで女王様プレイってのも悪くないかも。ああそうだ。抜かず三発っての、やってみない?」
いきなり美咲の顔が、プレゼントをもらった小さな子のように華やぐ。
俺は、その笑顔を見て泣きそうになる。
俺は、これから恐ろしい折檻を受ける子供のような気分で、美咲にぐいぐいひっぱられながら商店街に重い足を進めるのだった。
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