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1116 「早瀬と雪」、冒頭部リライト
2004/10/5(火)22:54 - 月白 - 2762 hit(s)

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 早瀬と雪


 前面にはデパートがある。それを眺めているのに耐えられなくなった。僕は、行き交う雑踏の左右を見る。願う気持ちで、目を凝らして探す。
 見つからなくて、空を見上げた。その空は、どんよりと曇っていた。
 で、また前方の、ウィンターセールの垂れ幕を見る。
 僕の行動には、既に完全な周回コースが出来上がっていた。
 と、コツン、立ち止まった靴の音がする。それが耳に響いて、心臓にまで届いた。
 横にある、確かな人の気配。それに、鼓動が高鳴ってゆく。
 目端に映っている白いコート。その先が見たくて、見たくて。
 僕は、ゆっくりと顔を向けてゆく。
 肩にまで流れている、さらさらの髪が見えはじめて。
 柔らかな目と口が、徐々に形になっていって。
 淡い笑み、その中に優しさを湛えた早瀬雪野が、そこにいた。
 身体が震えた。
 奥からこみ上げてくるものに揺さぶられて、何か言おうとした。けれど、言葉にならなかった。
 その僕の前で、桜色の唇がやんわりと開く。
「まった?」
 たった一言。でも、でも僕を包み込んでくれる、ふんわりとした響きだ。
 休み時間の、冷たい風が吹いていたベランダ。そこで、いつも校庭を眺めていた早瀬。
 昼休みになると、いつも教室からいなくなって。午後の授業の直前に戻ってきた早瀬。
 その早瀬は、一月には転校していってしまう。
 目頭が熱くなった。
 視界がぶれる。
 奥歯に痛みが走った。
 と、目の前の早瀬が、口元を丸めた。
「行きましょう、東野君」
 その言葉で実感する。
 今は、今だけは、早瀬を感じることができる。
 僕は、こぼれそうになったものを喜びに変えて、早瀬と一緒に歩き出した。
 


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