よみかく分室課題部屋

1184 「兄帰る」　１０００字課題　Ｎｏ．７　　１/２　まこと

2005/1/2(日)17:48 - まこと - 3877 hit(s)

現在のパスワード

「兄帰る」　１０００字課題　Ｎｏ．７　　１/２　まこと

　昭男は巻き毛についた雪を払う。手の小指を立てていた。そのままフェイクファーのコートをなでた。ピンクのスカートがコートの裾でひらひらと揺れている。そこから筋肉質の足が延びていた。足には赤いヒールまで履いている。だがどうしても女には見えなかった。
　昭男は電信柱にくっついて立っている。昼日中だというのに人通りはない。さびしい通りだった。
　昭男は胸に手を当てた。にゃんこの手をして腕時計を見る。それから耳に当てた。目をパチパチする。そうして電信柱から身をのりだしては通りを見ていた。
　エンブレムのついたブレザーが角から出てきた。
　背の高い少年だった。髪を短く刈りこんでいる。
　スポーツマンタイプに見えた。少年はどんどん近づいてくる。
　昭男は口をキュッとむすんだ。こくんと一度頷く。そして電信柱から飛びだした。
「おひさしぶりぃ」
　少年が驚いた顔をした。よろけて一歩下がる。
「あ、兄貴」
　少年が手を口元に持っていった。開いていた口をふさぐ。自分で言葉をさえぎったという感じだった。
「わかっちゃったぁ？」
　低い声だった。かわいいとは言いがたい声だ。
　少年の顔に困惑が広がっていく。
「なにのんきなこと言ってんだよっ」
　声を必死でしぼりだしているらしい。眉根に縦じわができた。
「武史ッたらぁ。怖いゾォ」
　昭男は手をうしろに組んだ。どこかなよなよしている。
　武史はブルッと震えた。顔がおびえを表していた。
「やぁね。アタシが気持ち悪いんでしょ」
　昭男が大げさにターンをした。いつのまにか手にハンカチを持っている。
　武史はがくっと首をたれた。たれた首を大きくまわした。そして気だるげに戻す。
「気持ちが悪かったらなんなんだよ、兄貴」
　昭男は大きな体を丸めてもじもじしている。
「だぁってぇ」
「気持ち悪がられるくらいなんだってんだよ。それくらいの覚悟もないならやめちまえ。バカ兄貴」
　昭男は丸めていた背を伸ばした。武史よりも背が高かった。
「あるもんあるもん。覚悟あるもん」
「じゃ堂々としてろよ。電信柱に隠れてたりするなよ」
「堂々としちゃっても、武史はいいの？」
「あたりまえだろ」
　昭男が武史を振り返った。
「うちに帰ってこいよ。兄貴いないとやっぱ――寂しいよ」
　昭男がちょこちょこ歩きで武史に寄った。女装した大男が少年にしがみついている。そんな図だった。
「こんな兄でごめんっ」
「いいよ」
　武史が昭男の背中をぽんぽん叩いた。苦笑の顔に落ちたしずくを払う。雪はやんでいた。
　しずくは昭男から落ちていた。大量のしずくがしたたり始めていた。
　
４時間
　