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1194 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字)
2005/2/20(日)03:43 - 名無し君2号 - 6287 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.5(5000文字)

「にゃははは、にゃははは、にゃははのはーっ!」
 高々と首飾りを掲げながら、ミューは飽きることなく高笑いを続けていた。
 天井から壁、床にいたるまでが黒い色で統一された部屋のなか、アシュと、三体の
人形が拍手をしている。石造りの人形は、赤くごついもの、青くひょろ長いもの、白
くスマートなものと、それぞれ違った色、かたちをしていた。
 ――ああ、よかった。
 心の底から、アシュは師の機嫌が直ったことを安堵していた。聖王都からこの住処
《すみか》である塔に飛んでくる最中、ずっと怒り狂っていたのだ。道中、無言だっ
たのが怖ろしい。
「ミューさま、これでついに復活ですね!」
「ああ……これまで長かった……ホント、長かったよ……」
 天をあおぎ、ミューは感無量といった面もちで小刻みに体を震わした。
 かっと目を見開く。
「復活だー!」
「復活でーす!」
「復活だー!」
「復活でーす!」
 以下、ふたりのコール&レスポンスがしばらく続く。三体のゴーレムたちも、喋れ
ないなりに、それぞれの目代わりにつけられたレンズをぴかぴかと光らせていた。
「復活しても、いいかなーっ!」
「いいともーっ!」
「みんな、ありがとー! ミュ・シャ、がんばって封印解いちゃいまーす! カモ
ン!」
 勢いよくミューが手を横に払う。
 部屋の中央、ミューの真ん前で円が光り輝いた。円から放射状に光が広がってゆく。
光は複雑な模様と文字とを描きながら、床から壁へと這い上がり、天井までも覆いつ
くした。
 黒の世界だった部屋が、一面の魔法陣へと姿を変える。
 鼻歌を奏でながら、ミューは中心の円に首飾りを置いた。首飾りには五つの宝石が
散りばめられている。真ん中に飾られた血のようなルビーがとくに大きい。それには
負けるとはいえ、両翼に並べられた色とりどりの宝石たちも、並よりは立派なものだ
った。
 うるんだ瞳で、ミューは魔王が封印された首飾りを見おろす。
「なんど、この瞬間を夢見たんだろうな……」
「おめでとうございます、ミューさま」
 うん、ありがと、と素直にうなずいて、ミューは両腕を横に広げる。マントが音を
立てて広がった。まるで獲物を狙う大鳥のようだ。
「よし――」
 アシュはつばを呑みこむ。
「あとはまかせたぞ、おまえたち!」
 くるりと身をひるがえす。歩きだした。
 放置された首飾りと、目のレンズを点滅させるゴーレムたちと、出口へ向かう師と、
アシュはいそがしく顔の向きを変えた。
「あの、ミューさま? お師匠さま?」
「どんな封印がほどこされているのか解析しないとさー。さすがの私でも解けないな
ー」
 背中ごしに手の平をひらひらと振る。
 重々しい足音が鳴った。ゴーレムたちが動いている。赤と青、二体が首飾りを囲ん
だ。なだらかな体型を持つ白は、ぼけっと突っ立っているアシュの前へと来た。
 三本指のうち一本を立て、ちょいちょいと横に動かす。
「あ、邪魔ってことだね。ごめんごめん」
 あわててどける。
 三体のゴーレムが、首飾りを中心として三角形の位置に立った。同時に座りこむ。
赤くてたくましいのはあぐらを、青くて細長いのは正座を、白くて女性的なのは、体
の前に折り曲げた足を両腕で抱く、いわゆる体育座りをとった。
 丸いレンズが、ちかちかといそがしく明滅し始める。
 ふむ、とアシュはうなずいた。
 ――手を抜けるところは抜くわけか。
「さすがはミューさまだ」
 あらためて感心しつつ師を探すと、すでにいなかった。部屋中に描かれている模様
が、入り口のかたちにぽっかりと空いていた。
 いそいで追いかける。すでにミューは廊下の奥に消えようとしていた。
「あの、ミューさま。どのくらいかかるんですか、あれ」
「ひと眠りすれば、たぶん終わるかな。エセ導師のくせして、なかなか気の利いた封
印をかましてるみたい。どんなコードで組んでいるのかねー」
 だいたい魔法使いは朝に眠り、夕方に起きる。
 月が出ているほうが魔力が高まるということもある。夜こそが魔の領域であるとい
うこともある。ちょうどいまは夜明け、いつもならミューは寝ている時間だ。
 思いっきりミューはあくびをした。
 しながら、マントを脱ぎすてる。肩当てが床に当たり、音を立てた。アシュは拾う。
 黒のワンピース姿になったミューが、首を鳴らしながら指を弾いた。背中のホック
が、ぷつん、ぷつん、ぷつんと、アシュの目の前で外れてゆく。
 すとん、と落ちた。
 くしゃくしゃのワンピースを踏みつけながら、ミューは廊下を進んでゆく。
 アシュはそれも拾う。拾いながら、なるべくミューの白いブーツを見つめつつあと
をついてゆく。シルクのショーツ一丁の姿なんて、見たりなんかしない。ショーツの
色がごく薄の紫色なんて、もちろん知らない。
「ああ……」
 ミューが奇妙な声をあげた。思わずアシュは顔を上げてしまう。染みひとつない、
輝くばかりの背中がまぶしかった。これは不可抗力だよな、と思いこむ。
「もう、ブラのいらない生活ともお別れなんだよな。服だって、下着だって、みんな
買い替えなきゃならない。大変だ……ホント、大変だなぁ」
 と、ちっとも大変そうじゃない顔を見せた。
「思えば、この体も悪いことばかりじゃなかったなあ。お肌の手入れなんか気にしな
くてもぴちぴちだし、余計なものがないから肩はこらないし」
 両手で薄い胸元を押さえていた。色気自体はまったくもってないのだが、どうも妙
な気分になって、アシュはうつむいた。
 だって本当ならば、ミューさまは――
 通路が大きく開けた。
 壁のくぼみに、手すりで囲まれた円形の床がある。床はひとまわり大きな穴の上に
浮いていた。見あげれば、天井にもおなじ大きさの穴がある。
 ぱちんとミューが指を弾いた。
 金属音をあげ、手すりが開く。胸元まである囲いのなかへ、ミューは入っていった。
アシュだと腰ほどの高さとなる。
「ん、乗らないの?」
 問いかけに、アシュは腕のなかのマントとワンピースをしめした。
「洗濯つぼに入れませんと」
「そんなのゴーちゃんに……って、そっか」
 そうである。目下ゴーレムたちは封印解析に忙しいのである。ひまなのはアシュだ
け。
「おまえも早く寝ろよ。明日はひと仕事なんだから」
 言いながらもあくびをする。
 ミューとアシュは五階建ての塔に住んでいた。場所は聖王都メイルウィンドから西
へ、ひとつ山脈を越えた先にある砂漠である。日中は肌がひび割れるほど暑く、夜は
霜がおりるほどに寒い。そんな過酷な土地だが、塔のなかは魔法によって適温快適だ
った。
 砂漠は旅人も行き交うが、塔は蜃気楼によって隠されているので、普通の人間では
訪れることができない。つまりは普通じゃない人間ばかりが訪問者であった。
 ミューのあくびが終わった。目尻に浮いた涙をこすっている。
「アシュ……今日はよくがんばってくれたな」
 お姉さん騎士の姿を思い浮かべながら、たしかにがんばったよなと、アシュは心の
なかでうなずいた。あの女性は名をアーレスといった。しばらく忘れられそうにない。
あまりにも怖ろしくて。
「ありがと」
 ショーツ一枚だけのミューが、するりと身を寄せてくる。
 ちゅっ。
 音と、頬にほのかな感触とを残して、師は移動床に戻った。背を向けたまま、上階
へと昇ってゆく。
 思わず、アシュは頬に手を当てていた。腕からマントとワンピースが落ち、乾いた
音を立てる。ミューが消えた穴を見つめた。
 この塔は五階建てだ。一階が宝物庫、二階が書庫、三階がここ実験室、四階が住居、
五階が食料品などを収める倉庫である。五階が倉庫なのは、出入り口が屋上なので、
そのほうが便利だからだ。
 アシュは床に落とした服を拾いあげた。魔法の力で動く、自動洗濯つぼはここにあ
る。
 ワンピースを広げてみた。
 漆黒の布地に、赤い糸で複雑きわまる刺繍がほどこされている。たしか、空中に散
っている魔力を吸収して、服を身につけたものに与える術印のはずだ。
 ――新しい服を買うって……師はどんな格好をする気だろう。
「やっぱり服なのか切れはしなのか植物なのか生き物なのか、わけのわからない格好
になるのかなあ。大人の魔法使いって、みんな凄いことになってるもんなあ」
 ぶつぶつと呟きながら、アシュは通路の奥へと消えた。



■元のプロット

 辺境の塔、ミューの住処
(三人称アシュ寄り視点)
・魔王の封印された宝石を高々と掲げながら、これでダイナマイトボディーを復活さ
  せられると大喜びする。(魔王を復活させる理由を明かす)
・アシュとの会話で理由を補足する。本来はミューは大人の肉体を持つこと、師匠か
  ら呪いを受けて子供の姿にされたこと、魔王の力を使って呪いを解こうとしている
  こと。
・ミューは魔王の封印を解く。

※ここはシリアスに描く。宝石はネックレスになっていて、ひときわ大きな赤いルビ
  ーのまわりを、小さな宝石が飾っている。それぞれに魔族が封印されている。


■言い訳

 魔王復活の理由を、延々と会話で語られるのもちょっとどうかと考えた。
 このあと、魔王を復活させればどうせ呪いをとかせるのだから、そのときに「そん
な理由で我を復活させたのか」と呆れさせれば、魔王の描写にもなるかなー……なん
て言い訳。

 ちなみにここはインターミッション、小休止の場面です。
 前回の戦闘シーンが作者の予想を超えて(そこがダメなところ)長くなってしまっ
たので、ちょっと読者をホッとさせるのが目的。このすぐあとで魔王復活という緊迫
シーンがあるし。

 戦闘シーンが長くなったというか……軍団長のお姉さんのキャラが立ちすぎてしま
ったというか。いいことなのだか、悪いことなのだか。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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