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1196 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字)
2005/2/24(木)02:36 - 名無し君2号 - 4994 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.7(6400文字)

「うーむ」
 真っ白な顎髭を撫で回しながら、ゾーククラフトがうなった。
「いまのはいまいち面白くなかったな」
「だれも笑わそうとなんかしてねえんだよジジイ」
 ミューは手のひらを老人に向けて突きだした。あわててアシュは押しとどめる。
『燃え燃え』と魔王を吹き飛ばされたらかなわない
「超絶天才美少女魔道士よ。ダイナマイツ・ボディーとはなんのことだ」
 はなせ、はなしません、とやりあっているミューとアシュに向かって、ゾフィルが
問いかけてきた。
「決まってんだろー! 出て、引っこんで、出ている体のこったーい!」
 抑えているアシュごしに、ミューは両手を使って、出て(胸)、引っこんで(腰)、
また出て(尻)と、ゴージャスな女体を描きだした。
 ふむ。気の入っていないあいづちが打たれた。
「つまり、こういうことか。グラマラスな体を手に入れる、そのためだけにゾークク
ラフト陛下を復活させたと」
 爆音がおこる。
 腹を抱えてもだえる、ゾーククラフトの笑い声だった。
「なるほど! そういうネタだったのか! やられた、じつに見事だ! そんな、た
かがその程度のことで、我を、この魔王を復活させるとは! いかれておる!」
「……なあ、いっしょにこのジジイ、埋めちゃわないか?」
「そういうわけにもいくまいよ――」
 誘いかけられたゾフィルが目を伏せる。初めて見せた感情だった。
「さて、お前は復活と言った。それは、元々ダイナマイツ・ボディーであったという
ことだ。そこに『なにか』が起きて、いまのような幼い体となった。違うか」
 ミューはじっと銀髪の男を見つめる。
「察しが早くて助かるなぁ。早すぎる気もするけど……なぁ」
 もう魔王に爆炎を飛ばすこともないだろうと、アシュはミューから離れた。ミュー
とゾフィル、両者は互いに視線をぶつけあっている。決して険悪なものではないが、
かといって友好的でもない。なにひとつ見逃すまいと、観察する目つきだった。
 先に視線を逸らしたのはゾフィルのほうだ。顔が魔王のほうを向く。
「陛下、よろしいですか」
 ようやく魔王は笑い終える。と思ったら、ふたつしゃっくりをあげた。大げさにう
なずく魔王をたしかめてから、ゾフィルはミューに手を伸ばす。
 手のひらをかざし、小さな体の上から下までをなぞった。
 ほう、とひと声洩らす。
「これは……呪いか。超絶天才美少女魔道士よ、お前は『子供になる呪い』をかけら
れているな。それもかなり強力なものだ」
「ほほう! どうしてまた、そんな呪縛を受けているのだ?」
 魔王が身を乗りだしてきた。
 なんにも面白えことなんかねーぞ、と呟いてから、ミューは大きく息を吸った。
「嫉妬だ……私に嫉妬したんだ!」
 大きく口を開ける。魔人たちはかわいい八重歯を覗きこみながら、「嫉妬?」と問
い返した。
「そうだ。師が弟子をうらやんだんだ! 若く美しかった私をねたんで、呪いをかけ
……こんな体にしやがったんだぁ!」
 がしっとミューは自分自身を抱きしめる。
「あれだけのことをやらかしてしまえば、しかたがないかと」
 ぼそりと呟いたアシュに、一同の視線が集まる。魔王は興味津々で、ゾフィルは冷
たく、ミューは殺意以外がまったくない、純粋殺意視線だった。
「ねえアシュ。世の中にはいろんな死の原因があるよね。秘密を守れず死ぬやつ……
余計なことを言って死ぬやつ……喋りすぎて死ぬやつ……」
「えっと、ぜんぶ口が原因ですね」
「わかってんじゃないか〜ンフフフフ」
「あはは……はは」
「で、どうする? 死んでみる?」
 ごめんなさい。
 凄まじい力を秘めた魔人たちの前で、アシュはミューに向かって平伏していた。こ
の世のなかには魔王より怖ろしいものも、たまに存在する。
「そうですよね! ミューさまがご自分のお師匠さまに、子供になる呪いをかけられ
たのは本当ですもんね!」
 ふん、とミューが鼻で笑う。いちおうは許しが出たらしい。
 師の様子をうかがいながらアシュは身を起こす。立ちあがるとき――アシュはゾフ
ィルの瞳に、一瞬、燃えあがる炎を見た、ような気がした。
 気のせいか……?
「ふむふむ。ではその呪いとやらを解けばよいのだな?」
「ですが、陛下」
 すでにゾフィルの瞳は、元の凍てつきを取り戻していた。
「この呪いはかなりやっかいなものです」
「ほほう、ほほーう! それはまた楽しそうな話だな!」
 ちっとも楽しくなんかねー、とミューは舌打ちする。
「呪い自体は単純なものさ。合い言葉を言えばいい、ただそれだけ。ただし――」
「とてつもなく高い魔力が必要となります」
 ゾフィルが話を引き取った。
「高い魔力ときたか! ゾフィル、お前ではどうだ」
「呪いをかけられた当人、この超絶天才美少女魔道戦士を基準として、およそ六倍ほ
どの魔力でしょうか。私でもいまの二倍は必要かと」
「お前でも無理か! それはまったく、愉快な呪いだな!」
 心の底から楽しげに魔王は笑った。
「ですが……陛下ならば造作もないでしょう」
「そうかそうか。わかった。これほど豊かな時を過ごしたのも久しい。褒美として、
その呪い、この魔王ゾーククラフトが解いてやろう!」
 ゆったりとした動きで、魔王が腕を大きく広げた。顔には自信やら威厳やら尊厳や
らで満ちた笑みが浮かんでいる。
「ミューさまミューさま、なんだかいけそうな感じですよ」
 アシュは耳元でささやいた。
「そ、そうかな。期待しても……いいのかな?」
 ほのかに頬を上気させつつ、ミューもささやき返した。
「一時はどうなることかと思いましたが、ようやく当初の計画どおりにいきそうです
ね」
 そう。
 強大な魔力を持つ魔王を復活させ、うまく丸めこむなり脅すなり取引するなり、ど
うにかして、ミューにかけられた封印を解かせる。そんな壮大な計画――
 ううん?
「よくよく考えてみると、これは笑われてもしかたのない計画では」
「うん……」
 首をひねっていたアシュは、思わずそのままひねりきりそうになった。
 ミューの声は濡れていた。瞳までが濡れている!
「ここまで、長かった」
 ぽつりとこぼした。
「私がこんなお子ちゃまになっちゃって以来……東の霊峰に生えた花が呪いに効くと
聞けば東へゆき、西の道場で破邪の拳法を教えているって聞けば西へゆき、北にいる
氷雪の女王が若さを吸うと聞けば北へゆき、南の孤島に呪い師がいると聞けば南へゆ
き」
「そのことごとく、効果がありませんでしたね」
「そうだったなぁ。霊峰の花は性的不能に効く薬だったし」
「呪いといえば呪いなんですかね。西の道場では……」
「腕っぷしばかりが強くなりました」
 軽くミューは腕をひと振りする。風切り音をあげたその打撃は、とても幼い女の子
の出せるものではなかった。
「氷雪の女王さまはおっかなかったですし。ぼく冷凍保存されましたし」
「思いっきり若さを吸わせてやったってのに、てめえばっかりいい思いしやがってさ」
「いい思いといいますか……若返りすぎて、最後は赤ん坊になってましたけど」
「いちばん腹たつのはあいつだよ。うさんくさいとは思ってたんだけど」
「呪い師ですね。いろいろ道具を買わせられましたよねえ」
「ぜんぶガラクタでした」
 とほほ、と肩を落とす。アシュはそっと手を肩に乗せる――とたんに、立ち直った
ミューに振り払われた。
「だけど! ついに! いままでの努力がむくわれるときが来たんだぁ!」
 痛む手でアシュは拍手をする。
 うむうむと魔王ゾーククラフトがうなずいていた。
「最後の最後まで楽しませようとするその心意気、見事だ」
 だから芸人じゃねえっつーの……と口を真一文字にするミューを、アシュはまあま
あとなだめた。
「よし! ではゆくぞ!」
 魔王の腕が、ミューに向かって伸びてきた。まるで心臓をつかみとるかのような勢
いが、ぎりぎり胸元で止まる。
 ごきゅり、と音がなった。ミューとアシュがどうじに唾を呑んだ音だった。
「さあ、我に魔力を戻すがよい!」
 手の甲がくるりと返り、爪の鋭く尖った指が『ちょうだい』とばかりに動いた。
 止まっていた息を、ゆるゆるとミューははきだす。
「魔力? 戻す?」
「そうだ。魔力だ。我の肉体を復活させたのだ。当然、我が魔力の封印とて、解いて
いるのだろう?」
「封印だと!」
 節くればった手を払って、ミューは魔王の胸元に入った。
 法衣をひっつかみ、揺すりたてる。
「魔力は魔力で、べつに封印されているってのか!」
「おお、おお。そんなことも知らんで、我を封印から解いたのか。これはこれは――」
 こらえきれない、といった様子で、魔王は吹きだした。
「どこまで我を笑わすのだ! 笑い殺しにする気か!」
 じつに豊かな声量で笑いあげていた。まわりの魔人たちまで笑いだす。魔法陣の輝
く部屋のなかに笑い声は満ちて、四方八方から降りそそいできた。
 笑いの雨のなか、ミューは呆然と立っている。
「また……ダメなのかよぅ」
「あきらめちゃいけません! だったら封印された魔力を探しだせば!」
「そんなもん、どこにあるのかわっかんないもんさぁ。にゃはは〜」
 肩をつかんで揺するも、ミューは呆けたままだった。首ががくんがくんとなる。魔
人たちの笑い声はさらに高まっていった。
 思わずアシュは睨みつけていた。
 鋭く尖った目が――すぐに尖りをなくす。
 すでに魔王は笑いやんでいたからだ。おまけにその横顔は怪訝そうにゆがんだもの
だった。視線をなぞると、銀髪の男に辿りついた。
「どうしたのだ、ゾフィルよ」
 ゾーククラフトの問いかけにも、ゾフィルは笑いを止めない。
 氷の男が、まったく感情をあらわにしなかった男が、満面の笑顔を浮かべていた。
見れば、ほかの魔人たちも笑い続けている。
「ゾフィルよ!」
 ようやく銀髪の男が笑い声を止めた。まわりの魔人もぴたりと止める。
「これは失礼しました。魔王ゾーククラフト陛下どの」
 声にはたしかな感情があった。
 それは――喜び。
「さて陛下。私はただいまをもってあなたさまの元から去らせていただきます」
「ほほう? それはどういうことだ」
「魔力のない魔人など、存在する価値すらないということですよ」
 ――どこかで聞いたことのあるセリフである。



■元のプロット

 辺境の塔、ミューの住処
(三人称アシュ寄り視点)
・魔王の封印された宝石を高々と掲げながら、これでダイナマイトボディーを復活さ
  せられると大喜びする。(魔王を復活させる理由を明かす)
・アシュとの会話で理由を補足する。本来はミューは大人の肉体を持つこと、師匠か
  ら呪いを受けて子供の姿にされたこと、魔王の力を使って呪いを解こうとしている
  こと。
・ミューは魔王の封印を解く。

※ここはシリアスに描く。宝石はネックレスになっていて、ひときわ大きな赤いルビ
  ーのまわりを、小さな宝石が飾っている。それぞれに魔族が封印されている。

・配下の魔族から、順々に復活してゆく。期待をあおっておいて、最後に復活するの
  はよぼよぼの爺さん。ありありと失望するミュー。
・アシュにとりなされて、呪いを解くよう頼むミュー。断る魔王。だったらまた封印
  すると、ミューは手の宝石と、魔王たちの足下の魔法陣を示す。
・しばらく睨みあっていたが、復活させてくれた褒美だと強がりつつ、魔王はミュー
  の呪いを解こうとする。しかし果たせない。

※期待させておいて落とす。

・魔王が魔力を失っていることが判明する。とたんに魔王の配下、裏切る。前々から
  あなたの態度が気に入らなかったと、全員に三行半を突き立てられる。わめく魔王
  は配下全員の攻撃を受ける。魔王ごと塔は吹き飛ぶ。どこかへ去ってゆく魔王の配
  下たち。


■言い訳

 どうもプロットどおりに進められない。
 いや、結果はきちんとプロットどおりなんですが、そこに辿りつくまでの流れが右
往左往してしまいます。ちょっと会話させると横にずれてゆくし……文章量は予定よ
り増えてゆくし……むむむ。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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