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1201 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字)
2005/3/4(金)00:12 - 名無し君2号 - 5812 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.11(2600文字)

 目の前にそびえる銀色の塔に、アシュはほっと息をついた。
「やっと、ついたぁ……」
 その顔は汗ばみ、呼吸するたびに、肩が荒々しく上下した。
 上り坂のようにも下り坂のようにも感じる雲の道をはるばる来たから……だけでは
ない。道自体はとくに疲れもしないし、また楽でもなかった。普通の平らな道を歩く
のと変わりはなかったのだから。
 ぜいぜい、という呼吸音は、アシュ以外からもあがっていた。
 ミューではない。
「遅いぞー」
 すでに彼女は塔の前にいた。足の爪先をいらいらと上下させている。ふわふわした
雲の道では音も立たなかったが。
「す、すみません。ですが」
 アシュは横目づかいにとなりを見た。
 自分の肩にかかる、ずっしりとした重み。魔王だったはずの老人が、アシュの肩を
借りて、ぜいぜいとあえいでいた。皺だらけの顔を真っ青にしている。
「元魔王さんをここ、魔道協会に連れてきてもよかったんでしょうか。いちおうは魔
人なんですし」
 ゾーククラフトは、まだ異次元酔いから覚めていなかった。
「いーんじゃないの? だれも気づいてなかったしー」
 たしかに、ここまで来るあいだに五人の魔道士と出会ったが、みなミューとアシュ
に挨拶をしても、同行しているのが魔王だとはわかっていなかった。本人が「我は魔
王、ゾーククラフトである! うっぷ」と宣言しているにもかかわらず、だ。
 ぜひぜひと元魔王があえぐ。
「し、しかたなかろう。魔力がないのだぞ。この姿なのだぞ」
「そんなに自分が魔王だって気づいてほしかったんですか? 元魔王さん」
「そ、その元魔王はやめぬか。我とて人ぞ、傷つくのだぞ」
「人って……魔のつく人ですけど」
 ん? とアシュは首をひねる。
 ――魔人って……ようするになんなんだ?
「あの、ミューさ」
「たーのーもー!」
 問いかけようとしたときには、すでにミューは塔に向かって吠えたてていた。
 青みがかった銀色の外壁のどこにも、扉らしきものは見えない。高さは五階建てだ
ったミューの塔とおなじくらいだった。いまのミューの塔はこの半分しかないのだが。
「ウラーッ、アゼル、とっとと開けんかーい!」
『聞こえてるよ……』
 気だるげな女性の声だった。あたかも水たまりにできた波紋のように、声は塔から
波うって広がっていった。
「だったら早くしろよ。こっちは急いでんだからよー!」
 爪先立ちどころか、その場でぴょんぴょんと跳ねだした。
『どうぞ……ミューと、大きなお弟子さん、それに……ゾーククラフト……魔王さん
……』
 波紋な声がしたと同時に、銀色の壁に黒い穴が開いた。たちまちのうちに広がり、
入り口へと変わる。
「逃げるんじゃないぞー!」
 ずんずんと大きな歩幅で、ミューは塔のなかへと入っていった。
 アシュとゾーククラフトは顔を見あわせる。
「我のことを見抜いておったな。たしか、情報屋とかいうたか」
「情報屋というのは、ミューさまが勝手にそう呼んでいるんです。本当は――」
 どこまでも見抜くような、あの人はそんな瞳だった。
 鋭いわけではない。強いわけでもない。青い瞳で、静かに見据えてくるだけだ。
 ――魔法を学ぶことが嫌いなのではないね。
 声も低く、静かだった。なのに体中に染み入ってくる。
 ――アシュ、きみは魔法が怖いんだ。
 ぶるり、とアシュは震えた。
 そんなはずはない。だったら、どうしてミューのそばにいれるんだ。
「本当は、千里眼。あの人は、千里眼のアゼルと呼ばれています。なんでも、過去、
現在、未来、すべてを見通すことができるとか」
「ほほう。なかなか大した力の持ち主なようだな」
 唇の端をあげた元魔王をちらと見て、アシュは深く息をはいた。
「おーい! てめーらなにやってんだー! さっさとこーい!」
 ぽっかり空いた入り口の奥から怒声が飛んできた。
 あわててアシュと老人は駆けこんだ。ふたり肩を組んでいたものだから、引っかか
った。わたわたとひとりずつ入ったとたん、入り口は縮まり、なくなった。
 元通り、つるりとした外壁があらわれた。青みがかった銀色の壁が、光を反射して
輝いている。


〔ツリー構成〕

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┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
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┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
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┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
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┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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