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2005/3/12(土)23:29 - まこと - 4910 hit(s)
2号さんのリライトと比較をしてます。
比較しながら冒頭4行、それに起承転結について考えます。
では、まず冒頭4行から見てみましょう。
----------(まこと)------------------------------------------------------------
亮子は机と机の間をすすんだ。じゃまになる学生服を押しのける。学生服の少年から睨まれた。川野だ。ごめんと斜めに手をかざす。
めざすは担任の大沢だった。出席簿を手にした大沢が教卓を離れる。
「せんせー、ちょっと待ったー」
----------(2号さん)----------------------------------------------------------
きりーつ、れーい、ちゃくせーき、と、授業終了の儀式が終わった。
すぐさま亮子は机と机のあいだを突き進む。席を立とうとする生徒たちをかきわけ
かきわけ、立ちはだかる学生服は、邪魔だとばかりにぐいと押しのけた。
「な、なんだ?」
-------------------------------------------------------------------------------
いつ 授業かホームルームの終了後(まこと) 授業終了と確定している(2号さん)
どこで 教室で。
だれが 亮子が。
なにを 邪魔になる川野を(まこと) たちはだかる学生服を(2号さん)
どうした 押しのけた。
どのような理由で 先生を呼び止めるために(まこと) 邪魔だったから(2号さん)
まこと版の冒頭4行に、詰めこみ病の再発を確認しました。
あれもこれもと情報がいっぱいです。
毎度毎度どうして発生するんでしょうか。
病気は治療しなければなりません。
でも、どうしたらいいのでしょう。
ちょっと原因をさぐってみましょう。
はい。思い違いを発見しました。
「冒頭4行」イコール「起」だとカン違いしていたんです。
だから、詰めこめーになってしまった。
冒頭が起ではなく、含まれている部分なんですね。
冒頭4行で確定するのは、5W1Hだけでいい。
結と対応する内容は、早いほうがいいけれど冒頭が終わってからでも間に合う。
そこがごっちゃになっておりました。
原因がわかりましたから、詰めこみ病は解消されますね。
それから。
まこと版では何が起きているのか状況がつかめません。
これでは、読み進めるのがつらかったことでしょう。毎度おつき合いくださり、ほんとうにありがとうございます。
リライト版はどうでしょうか。
最初に舞台の説明があります。直後に、いきなり主人公が動きだします。先が気になってするする進みますよね。ガイドさんに、こっちですよと案内されている感じです。
状況がきっちりしているので安心して話に入っていけます。
私も2号さんと同じような効果をねらっていたのです。
ねらってはいたものの、下手くそなので失敗してしまいました。
冒頭では舞台を説明するのが大事なんですね。
説明の必要もないでしょうけど、場所ではなく舞台です。
冒頭では、必要な情報だけを、5W1Hで伝えていきます。
セルフチェックするにはどうしましょう。
今、なにが起きているのか、書きながら自問自答していくというのが良さそうです。
試してみて良ければ続けることにします。
さらに。
思いだしてみた結果、冒頭以前のストーリーを考えていなかったことも判明しました。
亮子が走りだしているところから、物語の世界がはじまっている。だからその前には物語が存在していないんです。唐突にスタートしています。
リライト版には、それ以前に授業を受けていたにおいが残っている。
書かれていない部分も、そこには存在しています。
物語がはじまる以前のことも考えておく。
その話をしたのはいつのことだったでしょう。
釣りの話のときですよね。あのときも理解だけはしていたんですけどね。
実行は難しい。
なんとなくボヤーっとしたバックストーリーなら、あるにはあるんですが。ぜんぜん足りませんでした。
次は起で比較します。冒頭4行は引用してませんが、あるものとして進めていきます。
----------(まこと)------------------------------------------------------------
(冒頭4行省略)
大沢が立ち止まった。
足が長いんだよなと思う。すらりと背も高かった。なにより姿勢がいい。
----------(2号さん)----------------------------------------------------------
(冒頭4行省略)
川野だ。振り向くまでもなく、小さな背中でわかっていたけれど。
ごめんと亮子は斜めに手をかざす。
いまはきみにかまっているひまはないのだよ。
「せんせー、ちょっと待ったー」
出席簿を手に、教卓を離れようとしていた大沢が、立ち止まる。
机に隠されていた足があらわになった。うん。やっぱり長い。すらりと背は高く、
頭も小さい。髪には少し茶が入っているが、若ぶっている感じはない。もちろんジジ
むさくもなくて……。
そう。オトナなんだ。川野なんかと違う、オ、ト、ナ。
「どうした」
ああん、低い声もすてきー。軽く唇のはじを曲げた笑いかたもすてきー。
-------------------------------------------------------------------------------
……起の行数が全然違う。
その前に、起を切るところはここで合っているのでしょうか。
大変です。起と承を正しく区切る自信がありません。
そもそも、ここまでが起、ここからが承という意識をもって書いていなかった。
意識が皆無だったわけじゃないです。多少はありました。転のときだけ。
ここで転をいれなくちゃと考えて、意識しながら書きました。だけど、結がまたあやふやです。
とんでもないことが発覚してしまいました。
ようやく骨の部位は認識できるようになったけれど、肉のほうは部位を見分けられません。
プロットを確認しましょう。
起 先生に憧れ、クラスメートをじゃまに思う主人公
えーと……なんでしょうか、コメディのようなこの展開は。
自分で作ったプロットを読み違えてダジャレとしか思えないことをやっちゃいました。
「じゃまに思う」ってことはつまり、さまたげになる存在であるということ。
先生に憧れている主人公が、こいつはじゃまだなと思っている状態にするところです。
どう早とちりしたのか、おかしなことをしています。
>>じゃまになる学生服を押しのける。
じゃまにするの意味が違います。
なにやってんでしょうね。
また、先生がかっこいいらしいことは書いてありますが、憧れていません。
かっこいいと思って眺めている、イコール憧れている。
間違いではないでしょう。
だけど、それを伝える情報がたりていない。
えー、つまり、両方失敗しております。
すでにおわかりでしょうけど、肉づけ失敗です。
比較する勉強がしたかったのに、それどころじゃありませんね。
気をとり直して
それでは、リライト版の文には込められていて、まこと版にないものを挙げてみましょう。
・物語の舞台
・先生に対する亮子の気持ち
・川野に対する亮子の気持ち
・川野の外見
・先生と川野との違い
この調子で、はたして最後までもつんでしょうか。すでにボロボロなんですが。
比較にいきます。
起の部分、私のはたったの6行です。154文字ほどになります。
2号さんのは15行で、389文字です。
倍ですね。違いすぎです。
2号さんのは、説明のためにたっぷりと文字を使っています。
先生に憧れているという説明も、川野に対する気持ちもちゃんと入っています。
私のものは、肝心なところを意図的と思えるほどキッチリ隠してあります。
なにかまた、自分でも気づかないカン違いがあるのかもしれません。
「理由をちゃんと説明をすること。説明はみんながわかるようにはっきりと書くこと」
これができておりません。自分で指摘するって、いいかもしれません。
バカさ加減を自覚できますね。
なにもかもたりないけれど。なんたって説明文がたりません。
説明する文について考えないといけません。
比較しながら、見ていきたいと思います。
承に移ります。
----------(まこと)------------------------------------------------------------
「せーんせ! 昨日返されたテスト、あたしの点数たんないんだけど。計算ミスかな?」
大沢の視線が戻ってくる。
「ほんとかよ」
声は亮子のうしろから聞こえた。川野の声だ。亮子はうしろを気にせず歩みよる。ポケットからたたんだ紙をとりだした。
「どれ、見せて」
大沢が折れ曲がった答案を受け取った。
亮子の脇を川野が通り抜けていく。肩にカバンを担いでいた。大沢の横にまわりこむ。一緒になって答案をのぞいた。
生徒たちがつぎつぎと教室を出て行く。それぞれの部活に向かうのだろう。
そうしているうちに三人意外はだれもいなくなった。チッチッと時計の音が響いている。
おだやかな日ざしにはなんともいえないあたたかさがあった。
大沢のすずしげな目もとが答案に向けられている。思案顔のくちびるには人さし指が当てられていた。
----------(2号さん)----------------------------------------------------------
「えへ、せーんせ」
とっておきの笑顔を見せてから、亮子は折りたたんでいた紙を広げた。
「あのね、昨日のテストなんだけど、なんか点数、足りないみたい。計算ミスってや
つ?」
折り目つきのテストを受け取り、大沢はしげしげと眺める。
見えないスイッチを押しているかのように、空中で人差し指を動かしだした。おそ
らく暗算しているのだろう。
ああん、そんなしぐさもすてきー。
大沢の横から、のそりと影が入りこんできた。
肩に鞄をかついだ川野だった。大沢とおなじように、空中で指先を動かす。ただし
こちらは五本の指をぜんぶ使っていた。おまけにやたらと早い。
「――うん、四点少ないね」
「ちょっと、なんでそんなことが川野に……」
「そういえば、川野はそろばんの資格を持っていたな」
「うす。検定一級です。暗算得意っす」
むー、と亮子は唇を山のかたちにした。川野を睨みつける。
余計なことしやがって! 至福のときをー!
「でも、ま、四点じゃたいして変わらないよな。この点数じゃあ……」
亮子は大沢の手から折り目つきの紙をひっつかむ。
「人のテスト見るな! プライバシーの侵害だ!」
くぐもった笑い声があがった。大沢が手を口元に当て、肩を震わしている。
うつむき、亮子は奥歯を噛みしめた。頬が燃えそうなほどに熱い。
バカ、バカ、バカ、川野の大バカ!
-------------------------------------------------------------------------------
まこと版が14行、359文字です。
リライト版は23行、578文字です。
起よりずっと行を使っていますね。ほぼ倍くらい。
文字ではまこと版が倍です。リライト版が倍までないのは、充分な説明を起でしてあるからだと思います。
まこと版とりライト版を比べて眺めると――。
まこと版がひどくあっさりしています。
行動に対する説明が皆無といっていい。ありません。
どこに置いてきてしまったんでしょう。
私の頭に、ですね。他のものは持ち出したのに「なぜ」は置いてきぼりです。
他のものと一緒に持ち出してあげなくちゃかわいそうですね。
忘れ物はいけません。気をつけます。
リライト版に、川野のエピソードが入っています。
あー、ここでツッコミポイント発見しましたーっ。
そういう勉強をしているわけじゃないんだけど、嬉しすぎて我慢できないかも。
正真正銘、生まれて初めて、つまり、初ツッコミです。
脱線するけど――いいでしょうか。
目の前の餌が、うまそうで。
暗算するときに使う指は3本だと思います。
薬指と小指にえんぴつを持って、タマをはじくからです。
計算するイメージが、目の前にばーっとひろがってくるので、つい、手が動くんじゃないでしょうか。だから動かす指は3本だけ。
おおぉ。私にも指摘できるじゃないですか。
嬉しいなぁ。
ライオンの気分ですね。ガゼルのお肉を食べながら「ありがとう、ガゼル君。すっげー、うめーよー」と叫んでる気分です。
えー、上等な餌だったという話でした。
食事タイム終了。比較検討に戻ります。
まこと版に川野のエピソードは、ありません。
川野を透明人間にしたかったと申しますか。
どうやら、みんなを驚かせたかったようなのです。この話はミステリーじゃないんですけどね。なにかまたカン違いがあったのかな。
考えてみます。
「川野のことなんとも思っていません。なぁんてウッソー。ほんとうは好きだったんでーす。びっくりしたでしょう」
こういった感じのカン違いだったもようです。
驚くわけありませんよね。
なーに空まわってるんだか。
先に進みます。
私の文にはなくて、2号さんのに込められているものを挙げていきます。
・亮子のかわいらしさ
・大沢への憧れ度増強(まこと版はやろうとしているのはわかる程度でしかない)
・川野の魅力
・川野に対する亮子のイラつき
どれもはぶけないポイントです。
はぶけないものなのに、書くことができなかったわけですよね。
それでは具体的に、どうすれば込めたいものが入れられるんでしょう。
これまでの、作品を書く手順はどうだったか。
書くものの順をメモにしていました。
変えてみましょうか。
込めなければいけないものの一覧をメモ書きにします。
そうすればいくら私がおバカだって、込めなければならないものを書くことができるしょう。
ああ、なのに。自信がもてないのはなぜなんだろう。
次の課題で試してみることにします。
いよいよ転です。
----------(まこと)------------------------------------------------------------
「先生、篠崎とつき合ってるだろ」
川野が静けさを壊した。
「ちょっと! なに言いだすのよっ」
大沢も口を開いたが言葉はでてこなかった。
「くそー、オレの篠崎先生をとったなぁー。ショーック」
川野の横顔は笑っている。ショックを受けた態度ではない。からかったつもりだろう。
大沢もつられたのか微笑みをうかべた。
素直によかったねと言いたくなった。
川野にも言いたいことがある。おもいっきりばーかと投げつけてやりたかった。
――せんせいのことならよろこんであげられるのに。なんでこいつのことはぶちのめしたいんだろう。
大沢が出席簿で川野を軽くたたいた。
たたかれても川野は笑っていた。
――なに笑ってんのよ、ばーか。篠崎のこと好きでもないくせに、ショックとか言っちゃって。川野のばか。ばかばかばか。ばか……。
----------(2号さん)----------------------------------------------------------
「そういえば先生」
川野の声は小さかった。まるで内緒話をするかのように。
「篠崎先生とつきあってますよね」
亮子は顔をあげた。勝手に体が動いてしまっていた。
もう大沢は笑っていなかった。なぜか教室の後ろを見つめている。川野もおなじだ
った。ああ、遠くを見るような視線って、こういうのを言うんだな。そう亮子は思っ
た。
「けっこうショックでした。だっておれ、篠崎先生、あこがれだったから」
反射的に、亮子は手のなかのテストを強く握りしめた。紙がつぶれる音がした。
川野が……藤崎に……あこがれ?
「でも、先生ならいいです。しかたないです」
大沢が川野を見た。下を向いたままの川野の肩に、ぽんと手を置く。そのまま歩き
だした。滑りの悪い教室の戸が開き、また閉まる音が、亮子の耳に届いた。
なぜだろう。
教室のざわめきが遠かった。やけに明るい笑い声が、現実のものと思えなかった。
でもそれは……どうして? なんで?
――だれのことで?
「と、いうことだよ」
川野は笑っていた。とても笑顔には見えなかったけれど。
「あー、ごめんな。お前も……その、さ」
ぎゅっと亮子は手を強く握りしめる。もうテストはつぶれる音すらたてない。
「気づいてたんだ」
ようやく、それだけを言った。
「まあ、それは、さ。なんとなく、な。はは、お前、わかりやすいし」
「わかってないくせに」
え、と洩らす川野に、男子が声をかけてきた。
「お、おーう。じゃ、その、さよなら、な」
-------------------------------------------------------------------------------
転と結との境もわからなかった。
ここで切ってもいいのでしょうか。
検証します。
あれ……転結が違ってる。
(まこと版)
転 先生にはやきもちを妬かず、クラスメートにはやきもちを妬く
結 自分の気持ちに気づく主人公
(リライト版)
転 クラスメートに妬くことで、主人公は自分の気持ちに気づく
結 腹をたてる主人公
こうですね。そうすると?
うん、大丈夫。切るのはここでいいです。
文章の量はというと。
私のは15行で、361文字です。
2号さんのが、27行で634文字です。
転はクライマックスになるわけで、一番ふくらんでいなければならないところです。
けれど私のものは、差が小さいことがわかります。
承:14行、359文字
転:15行、361文字
メリハリがつけられるといいですね。
文章を比べてみます。
まこと版が、スカスカですね。
簡素な文章の羅列になっているのは、1000文字を意識したからではないです。
説明がたりていると思いこんでいるためです。
実際にはたりていませんでした。
込めなければならないものは、リライト版にありました。
亮子が受けた衝撃の大きさとか。
大沢と川野の態度とか。
それに対する亮子の思いとか。
まこと版では、プロットそのままに、一行または一文ですませているために説明がたりないのです。
これを削ったとカン違いしています。
これは俳句でも詩でなく、お話です。小説です。ぽろりぽろりなんて散文は、小説の文章じゃありませんよね。
わかっていたつもりでしたが、違ったようです。
比べてみると一目瞭然。説明いらずです。
私のお話は、説明いらずというわけにはいかないですね。
だって、読み捨てられたくないです。
読んでいただくためにも、自分の書いたものを解説するつもりで説明文を入れていきます。
進んでいきます。
結に入ります。
----------(まこと)------------------------------------------------------------
川野の背が高いとはおせじにもいえない。亮子より低いかもしれない。足だって長いわけじゃない。なにより姿勢が悪い。
そんな川野の横顔が気になってしかたなかった。白い歯がのぞく明るい笑顔だ。
床に照り返す太陽ほどまぶしい笑顔だった。
----------(2号さん)----------------------------------------------------------
返事なんかしてやらなかった。
バカ、バカ、バカ、川野の大バカ。肝心なことに気づいていない。
でもいちばんのバカは――
「あーっ、もう!」
亮子は、よれたテストを、さらにぐしゃぐしゃに丸めた。
-------------------------------------------------------------------------------
まこと版4行で、115文字です。
リライト版5行で、98文字です。
ここは同じくらいなんですね。じゃっかん私のが多いですけど。
行数で割合を比べると。
(まこと版)
起 15%
承 36%
転 38%
結 10%
(リライト版)
起 21%
承 32%
転 39%
結 7%
起と結のところや、メリハリは劣っていますが、割合ではそれほどズッコケてないと思います。
全体的に説明がたりてないだけです。
おしなべて、書きたさなければならないものが多い。
それをちゃんとクリアーして、なおかつ起承転結のバランスもとれていて、お肉が正しくついている。
そこまでが当面の目標です。
やることいっぱい。
結部分を比べても、いままでと同じ感想です。
まこと版は、なにを言いたいのか、わかるようでいてなんだかはっきりしない。
書き手のバブリーな夢想を読まされた感じ。
リライト版はしっかり伝わってくる。
ぐしゃぐしゃに丸めた→怒ってるんだな、といったふうに。
説明文が入ったバージョンを書いてみたい。
やってみていいでしょうか。
複文のしばりなしにさせてほしいのですが。
さくっと書いてみたいのです。
-------------------------------------------------------------------------------
着席というかけ声にしたがう生徒はほとんどいなかった。ほとんどの生徒はカバンに教科書を詰めこみはじめている。話し声やらイスを引く音やらで教室はにわかにそうぞうしくなった。
亮子は帰りじたくもせずに教卓のほうへと歩きだした。担任の大沢に話しがあるのだ。
足を速めるとすわっていた男子が急に立ちあがった。ちょろちょろしてどうしようもなくじゃまだった。
「ちょーっと、ごめん」
腕をぐいっと引いて追い越した。川野だった。サル顔がけわしくなる。
だけど今はかまっていられなかった。
めあての大沢が教卓から離れた。
背がすらりと高くて足も長い。それに姿勢も良かった。
なのにいやみがないのは妙にぬけているせいかもしれない。女子にもてるだけではなく男子にも人気があった。
もちろん亮子も例外ではない。大沢の大ファンだ。
「おーい。せんせー、まってよー」
大沢が立ち止まった。
こばしりになってそこへ駆け寄る。
「ねぇねぇ、テストなんだけどぉ。採点ミスがあったんだぞぉ。ほらぁ」
亮子はポケットから出した答案をバッとひろげて見せた。
「なんですとぉー!」
声はなぜかうしろから聞こえてきた。川野だ。
あのサルめとだけつぶやいて無視してやった。
それが一番こたえることをちゃんと知っていた。
大沢はバツが悪かったのだろう。苦笑して答案を受け取った。
その大沢にいつの間にか川野が並んでいた。首を伸ばして答案をのぞく。
「こぉら、サルッ。見てんじゃねぇ!」
ハッとわれに返ったけれど遅かった。
大沢の目がまん丸くなっている。
「えへっ」
亮子はできるだけ女の子らしいしぐさで肩をすぼめてみた。フォローのつもりだった。
「おーえーっ。似合わねー」
亮子は川野に反応しなかった。
大沢は長いまつげをふせて答案を見つめていた。たんせいな顔が動いた。懸命に計算しているようだ。
「あの、さー」
川野が大沢の顔をのぞきこんだ。
「篠崎せんせーとつき合ってるって……本当?」
「ちょっ、川野っ」
亮子は足をいっぽ踏みだした。なんて失礼なんだろうと思った。
川野は不安げな顔で大沢を見あげている。
大沢は答案を見たまま固まっていた。カチンコチンとかバリバリとかいう音が聞こえてきそうだった。
かわいそうな大沢をなんとかしてやりたかった。
野蛮なサルから大沢をまもろうとした。
亮子が敵へと攻撃にでるまさにその瞬間だった。
「ショック……」
川野ががくんとうつむいた。肩も落としている。まさか本当だとは思っていなかったらしい。
「な、なによ。それくらい」
唐突に亮子は腹がたった。腹がたって川野を怒鳴りつけたくなった。
「だいたいねぇ、先生に熱あげてどうすんのよ! 相手は大人なんだよ。中学生なんか相手にするわけないでしょっ。バカ」
「まぁまぁ。落ちついて」
大沢が答案を片手に持って亮子に向けた。点数がたりない答案がヒラヒラしている。
亮子は息をあらくして拳をにぎっていた。
「大丈夫か?」
大沢はやさしい。大沢が篠崎とつき合っているなら素直によろこんであげられる。自信をもってそう言えた。
「恨むからなー、せんせー」
川野がなさけない声をだした。
亮子は頭が熱くなった。熱がでてきそうだった。
川野がよろよろと机に両手をつく。
篠崎を好きだったなんてバカもいいところだと思う。
失恋してショックを受けるなんて。
なぜかどうしても許せなかった。
川野がしょんぼりとしていた。どちらかといえばチビな少年だ。足が短く姿勢も悪い。
それなのに川野の様子が気になってしょうがない。
――あーもう。ムカつく、ムカつく、ムカつくー。だぁってーー、あたし……。
大沢も他のクラスメートも視界からは消えていた。そこにはもはや川野のサル顔があるだけだった。
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┣【1209】 リライト版との比較勉強 2005/3/12(土)23:29 まこと (19953) |
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