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1213 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字)
2005/3/20(日)19:14 - 名無し君2号 - 4909 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.18(7200文字)

 広い部屋のなか、荒い息があがっていた。
 たくましい長身を法衣に包んだ男が、地面にうずくまって、あえいでいる。黒髪の
生えた後頭部からは――銀に光る杖が伸びていた。
「あれー、どうしたんですかー、ゾーク陛下ぁ」
 へたりこむゾーククラフトのとなりには、寸詰まりのマントにぴちぴちの黒いワン
ピースを着た長身の女性が、腕を組んで立っていた。
 顔をあげない魔王を覗きこむ。後ろでまとめた赤い髪が、首の横から滑り落ちた。
「もしかして、もうダウンですかー?」
 にたりとミューは笑った。
 そんなふたりを遠巻きにして、アシュとアーレスは見つめていた。アーレスの横に
は、完全武装の騎士たちがずらりと並んでいる。
 神殿の一室だった。
 本来ならば、信者との集会を開くために使われる、大きな講堂だった。そこにいま
は、傷ついたものたちが列を成している。ほとんどが農民の姿だった。
 ――あれから、ミューは魔王をさんざんに連れ回していた。
 まずは聖王都の外だ。
 魔人の手によってぼろぼろになった大地と農作物とを、魔王の力で元通りにした。
地形すら変わっていたというのに、だ。
 つぎは亡くなったものたちの復活だ。
 城の騎士たちの手も借りて、犠牲者を神殿内に運びこんだ。それらすべてを、魔王
の力で復活させた。ミューの言葉によると、魔人の手にかかると、魂が拡散せずに魔
人に捕らわれたままとなるから、かえって復活させやすいそうだ。
 そしていまは、比較的軽傷のものたちを癒させている。
 ぶっ続けで魔法を使わせたまま、すでに日もとっぷりと暮れていた。
「も、もはや……」
「はいー? 聞こえませーん」
 耳に手をあて、ミューは大声で叫ぶ。
「もはや魔力が尽きた……休まねば、小石ひとつ動かせぬ」
「へえ……そうなんだぁ」
 びくん、とゾーククラフトは顔をあげる。
「じゃあ、ご褒美をあげちゃうわぁ、魔王さまぁん」
 にこやかな顔で、ミューはゾーククラフトの首に手を回した。
「――こ、れ、は」
 銀の首飾りが、魔王の首にかけられていた。
 高く鋭い悲鳴があがった。
 喉を振りしぼったまま、ゾーククラフトの顔がみるみるうちにしおれてゆく。首飾
りと、眉間に突き刺さったままの杖とが、紫色に輝いていた。
「おおおおおおお」
「にゃーははははは」
 皺だらけの顔となったゾーククラフトが、高笑いをあげるミューへと手を伸ばす。
指も細く枯れていた。
「わ、我を……たばかったのか!」
「人聞きの悪いことをいうない。魔王さまの配下の尻ぬぐいを、魔王さまにしてもら
っただけじゃないですかー? ついでに教えてあげると、その封具ね」
 魔王の首で紫の光を放つ首飾りを指さした。
「子供の状態じゃ、私には使えなかったのね。魔王さまが呪いを解いてくれたおかげ
で、私の魔力もパワーアップ! 封具も自由自在さ!」
「おのれぇぇぇぇぇ」
 絶叫を残して、ゾーククラフトの姿はかき消えた。
 銀の杖と首飾りとが、床に落ちて金属音をあげる。
「にゃはは……これですべてよし!」
 子供時代よりは豊かな胸を張って、ミューは笑いだした。
「……アシュよ。お前の師は、魔王以上だな。いや……ある意味、以下か」
「す、すみません」
 アーレスの言葉に、アシュは身を縮こませる。
「アシュー、ぜんぶ終わったぞー、さ、帰ろ」
 手を振りながら、ミューが駆けてくる。ざざざ、と波が引くような音がして、まわ
りの騎士たちが横に広がった。アシュとミューとを取り囲む。
 まったく気にせず、ミューは三段飛びでアシュに抱きついた。
「あはは、ついにやったぞ。あんのクソババアの呪い、解いてやった!」
「ババアって、ミューさまの師匠はエルフですから、年は取らない……ちょ、ちょっ
とミューさま、みんな見てますって!」
 ぐいぐいとミューはアシュの顔を胸に押しつけてくる。ミューが子供だった時代と
は、互いの大きさが逆転していた。女性にしては高い身長のおかげで、アシュの頭が
ちょうどミューの胸元に当たっている。
「なんだよ、気にすんなよー。今日はお祝いだなあ。にゃは」
 こほん、と咳払いがした。
「魔女ミュー。きさま、このまま黙って帰れるつもりでいるのか」
「なあアシュぅ、なにが食べたいー?」
「どうせ作るのはぼくなんでしょう」
「お前ら、話を聞けぇ!」
 アーレスは強く足を踏みならした。石畳にひびが入る。
 抱きついたまま、ミューが横目で見やる。
「なんだよ、アーレス。うらやましいのか? こいつ、ちょっと貸してやろうか」
「うるさいっ! 気安く人の名前を呼ぶな!」
 真っ赤になって肩を怒らせた。
「アーレスでいいって言ってたくせに……」
「あのときはあのときだっ! そもそもこうなった原因はすべてきさまにだな」
「だからぜんぶ元通りにしただろー。まだなにかあるのか?」
「元通りにすればよいわけではない。王都および神殿内に無断で侵入、魔王の封印を
強奪、復活させた罪。きさまが甦らせた魔人どものために、王都が危機に瀕した罪。
そのすべてを償ってもらうぞ!」
 剣を抜き払った。魔剣から放たれた青い光が、輝きを増す。アーレスの後ろに、騎
士たちが隊列を作った。
「ふん……元の姿を取り戻した私に、勝てると思うのかなー。魔力も数倍だぞぅ」
 無言でアーレスは構えをとった。
 ミューもアシュから身を離す。
「や、やめてくださいよ、ミューさま。それにアーレスさんも」
 手を伸ばし、アシュはふたりを止めようとした。
 そっとミューが振り払う。
「なーに、すぐに終わる……よ……」
 自分の手を、ミューはまじまじと見つめた。細かく震えている。
「う……あ……? な、なんだ」
 体から、紫色の光が立ちのぼった。紫煙となって空に昇る。
 紫のなか、ミューの体はどんどんと縮んでいった。
 光が消えたとき、元通り子供となったミューが、そこにいた。目も口も力なく開い
た、呆然とした表情で、小さくなった手のひらを見つめている。
「なんで……どうしてぇ!」
 ほとんど泣き声だった。
 ふらり。
 バランスを崩し、倒れた。間一髪、アシュは抱きとめる。
「いったいなにがおこったんです。さっきはたしかに」
 ちくしょう、と幼い顔つきのミューが、天を仰いだ。
「あんのクソジジイ、膨大な魔力だけを注ぎこんで、肝心の呪いを解いていかなかっ
たんだ! たったひとこと、解呪の言葉を唱えさえすれば、この呪いは解けたってい
うのに……ああ、ああ! 魔王が消えたから、呪いを中和していた魔力も消えて……
うう!」
 影が、ミューの体に落ちた。
 見あげると、アーレスがそばに立っていた。目を細め、唇を噛みしめている。
「……なんというか、同情すべき結果だとは思う。悪いが、これも守護騎士たる私の
使命だ。覚悟してもらおう」
 涙目でミューは見あげた。
「……うるさい」
 アーレスが目を剥く。がくん、とその場に膝をついた。大剣にすがりつく。ぶるぶ
ると震えながら、どうにか倒れこむのを防いでいた。
「こ、これは」
 アシュはミューを抱えたまま、アーレスから離れた。
「例の能力増強魔法を、いま解除したんです。アーレスさん、しばらくは寝たきりで
すよ」
「ま……て……ミュー……アシュ!」
 腕を伸ばして、そのまま倒れた。
 罪悪感を覚えつつ、アシュは走る。腕のなかのミューは、だらりと力を失い、かろ
うじてアシュにすがりついていた。
 ミューさま……。
 考えてみれば、大ダコと闘ってからずっと、休みなしで大魔法を使いまくったので
ある。なによりキツイのは、ようやく願いがかなったと思ったのに、あっさり裏切ら
れてしまったことだろうか。
 まわりは騎士たちに囲まれていた。
 抱きかかえたままでは剣も振るえない。ぎらつく剣の壁を睨みながら、アシュは抜
け道がないか首を振って探した。
「上だ……アシュ」
 腕のなかのミューが、指先を天井に向けた。
 赤い光が真上に放たれる。
 爆発が起きた。落ちてくる小石とほこりのなかへと、アシュは跳ぶ。首のスカーフ
に手を当て、願った。
 音をたててスカーフが広がる。わずかな風をつかんで、舞いあがった。
 怒声を背に、星空へと飛ぶ。



 空には赤と青、ふたつの月が輝いていた。
「……どうしてこうなるのかなあ」
 呟きは風にのって流れてきた。アシュの目の前で、ミューの赤い髪がなびいている。
アシュのスカーフでは長距離の飛行はむかない。いまは、いくらか立ち直ったミュー
のほうきで、へろへろと夜空を飛んでいた。
「いつもいつもこうだよなあ」
 はあ、とため息をつく。
「その、なんといえばいいか」
 言葉が続かない。アシュはミューの腰にまわした手に、わずかに力をこめた。
「いいよべつに。どーせ私はガキのまんまなんだ……」
 鼻をすすりあげた。
「でも!」
 思わずアシュは叫んでいた。
 そのまま口ごもる。
「……なんだよぅ」
「そんなミューさまでも……その、ぼくは尊敬してますよ」
「まったくもってなぐさめにならない」
 そうですよね……とアシュは力なく笑った。
「でも」
 ミューは顔に手を当て、こすった。水滴が風にのって、アシュの頬で弾けた。
「ありがとな、アシュ」
 アシュは濡れた頬に、指先で触れた。
「いえ」
 体重を預ける。熱い体温が伝わってきた。自分の体温も、伝わればいい、と思う。
「そういえば……大丈夫なんですか、おなか」
「おなか? ああ、ぶっ刺さったとこか。平気だよ。刺さった杖から、ちょっと魔王
の魔力をいただいて、それで治したからさ」
 ぴんとアシュの脳裏にひらめくものがあった。
「だからゾフィルに必殺魔法を唱えられたんですね?」
「そうそう。少しはお前も、魔法のなんたるかがわかってきたのかな」
「いや……それはどうでしょう。でも、無事でよかったです。あのときは本当に心配
したんですよ」
「知ってるよ、うん。……そんなに心配なら、触ってみるか? ほれ」
 胴にまわしていたアシュの腕をつかみ、ミューはぐいと腹に持っていった。
 ぴくん、と指先を振るわした。
 おずおずとアシュは触れる。
 すべすべした肌の感触が伝わった。つつつ……と指先を動かすと……するりとくぼ
みに入る。
 あ。
 妙にミューは色っぽい声をあげた。
「こ、この……どこ触ってんだよ!」
「ええ、え、その、おへそ、ですか?」
「バーカバカバカバーカ! スケベ! ヘンタイ! この肉欲!」
「に、肉欲はやめてくださいよ!」
 満面の星が広がる空に、ふたりの言いあいが響き渡った。
「スケベー!」



■元のプロット

・ひたすら喜びまくるミュー。魔王は約束を守れとミューに迫る。ミューは聞く耳を
  持たない。「どうして人間が魔王と約束なぞしなくてはならないんだぁ?」
・封印しかけたとき、女騎士がミューを責める。ミューのせいで多数の犠牲者が出た。
・普通の死と違って、魔族にやられた人間の魂は魔界へと行ってしまう。ミューは魔
  王に、魔界にいった魂を戻すよう命令する。代償は封印の解除。屈辱を感じながら
  も従う魔王。
・魂を一体一体戻したため、一日中かかった。疲労困憊の魔王。約束を守れと迫る魔
  王を、ミューはあっさり封印する。

※ミューの極悪ぶり。

・魔王を封印したとたん、ミューの呪いも復活した。子供に戻るミュー。
・騙されたと憤慨する間もなく、ミューは聖王都の軍勢に取り囲まれる。魔力はほと
  んど底をついていた。ミューはアシュと共に逃げだす。
・女騎士、あえて見逃す。(いちおう救われたことを感謝している。裏の理由は、こ
  れ以上は関わりあいになりたくない)

※ミューのトホホンぶり。
※ミューの移動手段は、異空間より箒を取りだし、それに乗ること。アシュとはふた
  り乗り。

 上空
・文句を言い続けるミューをアシュは「そんな体も好きですよ」と慰める。ミュー、
  照れをごまかしつつ、「おまえに好かれてもうれしくない」と素直じゃないところ
  を見せ、なんかラブラブな感じをかもしだしつつ終了。

※照れ隠しに「このヘンタイめ」とあたりに叫んだりする。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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