よみかく分室課題部屋

1215 「心を竜にして」　１０００字課題　Ｎｏ．１３　３/２６　まこと

2005/3/26(土)22:55 - まこと - 4595 hit(s)

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「心を竜にして」　１０００字課題　Ｎｏ．１３　３/２６　まこと

「いぃお天気よね」
　ディレマが声をかけたのは、背丈の倍はあろうかという生き物だった。竜だ。岩壁の裂け目に横たわっている。ディレマに恐れる様子はない。両腕を巨大な頭にまわした。
「曇ってるよ、ディレマ……ねぇ、寒いの？　青い顔してる」
　竜が心配そうな声をだした。
　ディレマは家を抜けだすのに、ケープを羽織っている余裕がなかった。それで薄着をしてきたのだ。しかし、顔色の悪さは他に理由があった。
　眺める銀の目に、縦のすじがはしっている。ゆがんだ唇からは、黄ばみがかった牙が突き出て、びっしり並んだうろこの上に伸びていた。
　そこに、ディレマの頬があった。するりとした感じの肌が、うろこに寄せられている。
「村でね。騒ぎがあったの。竜が出たって――それで、明日、竜退治をね……」
「へー、物騒だねー」
「……あんたのことなの」
　竜が頭をもたげ、斜めに傾ける。
「逃げるのよ」
「どーしてー？　なにも悪いことしてないのに」
「村の人には、竜なんてみんな同じに見えるの。蛇の顔の見分けがつかないのと一緒。あんたは竜なの。退治されちゃうの。わかるわね？」
「わかんなーい」
　しっぽをひと振りした。重たい音が聞こえて、土ぼこりがあがる。
　竜を見上げるディレマからも、重いため息が聞かれた。
「ともかく逃げるのよ」
「いーよ。どこ行く？」
「あたしは行けないわ。ひとりで逃げるの」
　ディレマだって、離れたくはなかった。
　竜のくせに、竜を恐れている、かわいそうな竜だ。
　一族にはぐれていたところを拾い、人の言葉を教えたら――竜語を話せなくなっていた。
　だからといって、ディレマがついていくこともできない。
　両親のもとを離れる年にはまだ早かった。たとえその年になっていたとしても、相手が竜ではどうにもならない。
「逃げるのヤダー。ディレマとここにいるー」
　竜はしっぽをばたつかせた。地響きに似た音がする。ほこりっぽい匂いがしてきた。
　村の人たちに、竜が無害だと話しても信じてはくれない。信じろというほうが無理だろう。それに、無害とは言いきれない。
　なにしろ体が大きいので、くしゃみをされただけでも、吹き飛ばされそうになるのだ。
　ディレマが説得しきれなかった村の人たちが、明日になると、竜退治にやってくる。
　竜は、村の人たちと戦えるほど強くない。
　他の竜とは違って気が弱いのだ。火を怖がって、口から炎を吐くこともしない。
　どうしたらいいのか答えはなかなか見つからなかった。大声で叫びたくなってくる。
　大きな甘えん坊を、怒鳴りつけてやりたかった。
　そしてある考えが頭に浮かんだ。
　やさしくしているかぎり、竜は甘えて離れていくことはできないのではないか。
　それでは結局、やさしくしていることにはならない。ちっとも竜のためにならないのだから。
　竜が未練を残さないようにしてあげる。それがディレマの答えだった。
「あんたがいると迷惑なのよ！」
　心は決まっていた。続けるのだ。
「あたしは人間なの。人間と仲良くしたいの。竜と仲良くしてたら、みんなに嫌われちゃうじゃない。悪いけど、早くいなくなっちゃって」
「ディ、ディレマ。どうしちゃったの？」
　竜はまばたきもしないで、ディレマを見下ろしていた。
　ディレマはくるりと背を向ける。シワひとつなかった顔が、くしゃくしゃになっていた。

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一行コンセプト　
「仲良しの竜が退治されると知った少女。逃がすために、冷たくつきはなすフリをする」

人物設定
　主人公　ディレマ　動物好きな少女。爬虫類も平気。

　竜　スケイル　気が小さい。子どもの頃、一族とはぐれてしまった。とかげとカン違いしたディレマに飼われることに。竜の仲間に戻る気がしない。

　※竜は、狼や熊と同じあつかい。里に近づいたり、人を襲ったりしなければ、村人も騒がない。スケイルのいる洞窟は、ディレマが通えるほど、里に近い。
　急激に大きくなったスケイルは、村人に姿を目撃され、騒ぎになってしまった。

起　竜にあたたかく接する主人公
承　竜退治のことを告げ、逃げるようやさしく勧める
転　別れを拒む竜に、心を鬼にすることを決意する
結　竜に冷たく接する主人公

５時間
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