よみかく分室課題部屋

1216 「心を竜にして」　リライト

2005/4/1(金)23:30 - まこと - 4456 hit(s)

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「心を竜にして」リライト

「まだいたのっ、早く逃げて！　村の人たちが来るわ」
　ディレマのうすい胸が、呼吸に合わせて動いていた。
　岩壁に裂け目がある。そこに大きな生き物がうずくまっていた。竜だ。
「ディレマが一緒じゃなきゃ、ヤダ」
　銀の目がぎょろりと動く。くちびるから、黄ばんだ牙をのぞかせていた。体はうろこで覆われている。短い足に指が三本あった。するどいカギヅメがついている。
　大きかった。ディレマなどひと飲みにできてしまうだろう。
「スケイルちゃん……」
　竜の頭がディレマに近づいていった。栗色の髪が、鼻息に流される。ぱっちりした瞳に竜の羽が映っていた。こうもりの羽に、よく似ていた。
「ディレマ。僕、どこにもいかないよ」
　村人に襲われると言ったところで、ピンとはこないのだろう。
　ディレマの両手が竜の頭にからんだ。
　離れたくない気持ちは、ディレマだって同じだった。
　けれど、村人の気持ちは違っている。
　竜を退治しようとしていた。
　もうじき、大挙してやってくる。
　ディレマは竜を助けてやりたかった。
「ねぇ。村の人、鍬を持ってたのよ。鋤を持ってる人だっていたわ」
「僕、ディレマと離れないもん」
　ディレマとしては複雑な心境だった。うれしくもあり、また、困りもした。
　手を、竜の頭から首へとすべらせた。二度三度とくり返す。
　竜のまぶたが下がった。
　こうしている間にも、村人が迫っているはずだった。
　一刻も早く、逃がさなければならなかった。
　しかし肝心の竜に、逃げる気がない。
　甘えてばかりだ。
　ディレマはふと思った。
　甘やかしているから、竜が離れられないのではないかと。
　それなら、話は簡単だ。竜がディレマから、離れていけるようにしてやればいい。
　甘やかすことと、逆のことをするのだ。
　竜を冷たく突き放せばいい。
　ディレマは竜の頭を放した。
「ほんとは、竜なんか嫌い」
　竜が頭を持ち上げた。
　ディレマの胸に痛みがはしった。思ったほど簡単なことではないとわかった。気持ちがくじけそうになる。
　それでも、竜のためだと思い直した。
　だから、続けた。
「蛇じゃあるまいし、うろこなんて。気持ちわるーい」
「ディレマ？　どうしちゃったの？」
「言ったでしょ？　蛇も、竜も、嫌いなの。めずらしいから、からかってみただけ。もうあきちゃった。とっとと、どっか行っちゃって」
　竜がディレマの顔を、のぞきこもうとした。
「さわんないでよ。あっち行って」
　ディレマは胸が苦しくなった。竜に背を向ける。
「行って行って、早く行って。お願いだから、行っちゃって」
「ディレマのばか！　なんだよ、僕だってディレマなんか嫌い。僕のほうが、もーっと、ずーっと嫌いだよっ」
　ばさばさっと羽ばたきの音が聞こえてくる。強い風がおこった。髪やスカートがまきあげられる。
　大地を蹴る振動があった。風がいっそう強くなる。ディレマはびくともしなかった。離れていく羽音を聞いている。どんどん遠ざかっていくのを感じた。
　風がおさまる。それでもまだ、ディレマの髪は、震えていた。

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「竜と仲の良い少女が、竜退治を知り、冷たくするフリをして、逃がしてあげる話」

起　竜を逃がそうとして失敗する主人公
承　それでもなんとか逃がそうとする
転　どうしても逃げない竜に、冷たく突き放すフリをする
結　竜を逃すことに成功する主人公

５時間