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1222 「ひと足早い夏」 短編の結 5/1 まこと |
2005/5/1(日)18:27 - まこと - 3394 hit(s)
「ひと足早い夏」 短編の結 5/1 まこと
将矢は少女を見つめていた。
「似てる似てるって。にぃにぃもねぇねぇも、おじぃもおばぁも――この間、知らない観光客にまで、言われた」
不満たらたらの口ぶりだった。
「私、そっくりさんじゃない」
少女がうつむいて、砂をけった。けり方が軽かったので、砂がちらばることはなかった。
その砂を全身にかぶせられた気がする。
――なぁにやってんだろ。仲良くなりたかったのに、これだ。
はーっと息を吐き出した。それから深く息を吸いこんだ。
「ごめんっ」
おもいっきり頭を下げた。ただの思いつきで嫌な気分にさせてしまったのだ。心底申し訳ない気持ちだった。
「ほんっとごめん。よろこぶかなぁーなんて思ったんだよね」
少女の様子をうかがいながら、おそるおそる頭をあげた。
きょとんとして聞いている。そんなことで喜ぶとでも思ったのかという顔つきだった。 全身から汗が吹き出してくる。
「お友だちになれたらなって……」
汗ばむ手を組みつほぐしつした。Tシャツの裾で手の汗をぬぐう。それからまた、両手の指をからませた。
「あ、の。おととい、引っ越してきたばかりで」
「知ってる」
さめた口ぶりだった。
「知ってる、の?」
「島中が知ってる。東京から来たんでしょ?」
少女は得意げだった。
なんのことはない、狭い島だということだろう。
けれどもそのおかげで機嫌がなおったことに、内心ホッとする。
「名前は将矢だよね。よろしく、将矢」
いきなり呼び捨てなのにはびっくりした。けれど嫌ではなかった。なんだか、くすぐったかった。
「私、ひとみ。将矢と同い年だよ。将矢はもっと年上に見えるね。なんでかな。あんまり日に焼けてないせいかな。島の子はみんな真っ黒だからね。だけど、将矢もすぐに焼けて真っ黒になるだろうな。ふふ」
おとなしく見えたのだが、話しだすと止まらないらしい。
「ねぇ、将矢。星の砂って知ってる? 星の形をした砂なんだよ。おもしろいでしょ? 見たことある? ふたりでとりに行こうよ」
手を握ってきた。驚く将矢の顔をのぞきこんでくる。
「ね、行こ」
将矢の手が両手で握られた。
左右に振られる。それから強く引っぱられた。引っぱられて歩きだし、やがて小走りになった。
「将矢ってば、早く早くぅ」
急激な変化に、とまどいを隠せなかった。しかし、そんなことにはおかまいなしで、振り返っては笑顔を見せてくれる。
――うーん、これってなんか、どっかで。
将矢は顔がニヤけてくるのを感じた。
春がきたのかもと思う。
水際をパシャパシャさせ、しっかりと手を取り合って走った。
ぎらぎらした太陽が、ふたりが走る砂浜を照りつけている。春どころが、陽気はすでに夏だった。
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