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1227 「ひと足早い夏」 起のセルフリライト 5/5 |
2005/5/5(木)22:01 - まこと - 2816 hit(s)
「ひと足早い夏」 起のセルフリライト 5/5
将矢は太陽を仰ぎ見た。あまりのまぶしさにクラクラする。庭に目を落とすと、地面もやはり白い。沖縄の土や砂はなぜか白かった。サンゴとの関連を睨んでいるのだが、これにはけっこう自信があった。
白土の庭に、木造の家が鎮座ましましている。半円筒形のながっぽそい瓦は、色もオレンジと変わっていた。支える柱は干からびていて、隙間だらけだった。そんな素朴な家が、現役で存在しているのには驚く。住もうというのだから、なおびっくりだった。
庭を囲む石垣のところに、父がかがんでいる。段ボールの束をビニール紐でくくっていた。
「よし、これでラストだぞ、将矢」
「やったぁー」
将矢は首にまいたタオルをはずした。湿り加減のタオルを、両手でバシッと掲げた。汗が飛ぶ。
引っ越しの後片付けが終わったら、あとは好きにしていいという約束になっている。引っ越し三日目にして、ようやく島内探検に出かけられるのだ。
「気をつけてな」
はいという返事もそこそこに、かけだす。
出入り口の石垣でできた目隠しを、トンと叩いた。いがいがした表面の黒ずんだ軽石だ。こんな重苦しいもの、邪魔にならないのかなと思う。将矢がいた東京とは、なにもかもが違っていた。どんな珍しいものに出会えるんだろうと、わくわくしながら道を進んだ。
島内を歩いて回れるほどの島なので、どの道を行ったところで遭難することはないらしい。真っ赤なハイビスカスの咲きみだれる道を、ずんずん歩いていく。
ほどなく迷子になった。
くねくねと曲がる道は、枝分かれが多い。方向がわからなくなってくる。太陽を頼ろうにも――真上にある。地表にあるものを、容赦なく焼きつけていた。ゆらゆらと景色がゆれ、むわっとした空気の塊が鼻から入ってくる。ふらふらになって歩いていた。
道が砂地になった。サンダルがめり込んで指が砂に触る。
「うぎゃっ」
焼かれた砂が熱くて、ぴょんぴょん飛びはねた。その熱い砂をものともしない虫を見つけた。黒くて大きな虫だった。歓声をあげながら、近づいていく。
「ぎょえぇぇぇぇえっ」
サソリだった。おもちゃではない証拠に、動いている。しっぽをのけぞらせた格好で這っていた。
将矢のほうものけぞった。とりあえず逃げた。ぜーひーぜーひーと全力で走る。すると木立のトンネルが目に入った。消耗しきっていたが、なんとかたどりついた。
うっそうした木々の下は、ひんやりしている。日陰の感触を肌に感じた。両手をだらりと下げる。
肌に刺激を感じるほど強い日ざしは去ったのだ。適度な湿気がしっとりと全身を包んでくれる。さらに、足もとから髪の先までを、さやさやと風になでられた。
「はぁぁぁぁ、生き返るぅ」
なさけない声をあげた。
ひと息ついた。そこから、海が見えている。いつの間にやら、海まできていたのだ。
白い砂浜におだやかな波が寄せている。ずっと沖にも、白い波がたっていた。あれは飛行機から見えていたやつだろう。サンゴ礁にぶつかってできる波だということだ。
海はどこまでも続き、境目もわからずに空になっている。深い青の上に、巨大な純白がわきあがっている。入道雲だ。ぶわっと爆発する勢いが感じられた。盛りあがる音が聞こえてきそうだった。
――ひとり占めだ。
潮の香りがしてきた。そこに、先客を見つける。
少女だ。
肩につく髪が風にそよいでいた。真っ黒い髪を手で抑えると、将矢のほうに顔が向けられる。ドキッとするが、気づいてはいないらしい。まるっとした瞳が、通りすぎていく。日に焼けた褐色の肌に、白のワンピースが似合っていた。ワンピースから伸びる手足をしならせる。そうして、波打ち際を横切っていった。
砂を踏む音がわずかに聞こえる。
「天国、だ」
声に出してつぶやいていた。
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