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1231 「ひと足早い夏」 転のセルフリライト 5/12 |
2005/5/12(木)07:33 - まこと - 3205 hit(s)
「ひと足早い夏」 転のセルフリライト 5/12
将矢は黙っていた。声をかけられなかったのは、麻衣ちゃんと似ていたことに、驚いたからじゃなかった。
――そんなに、じーって見なくてもさぁ……。
ふたつの瞳が、まっすぐに将矢を見ている。そう思うとひるんでしまう。
おだやかな波が砂をあらっていた。すきとおった波だった。砂の上には少女の影もあった。
その影が動いた。
影を踏んでいる右の足が、そろそろとさがる。
女の子の足をまともに見るなんて、初めてのことだった。爪が丸い。こぶりの足だなと思う。
少女がうしろの足に重心を移動させていった。ズズという砂の音がする。それから、左の足が引き寄せられていった。
――あっ。
将矢は顔を上げた。
目を伏せた少女がいた。うつむきかげんだった。気まずい空気が、ゆらゆらたちのぼってくる。少女がくちびるをキュッと引き結んだ。気まずさに耐えられなくなったのだろう。顔が横にそらされた。そして、ぎこちなく体を回しはじめた。頭と体、それに足がぜんぶバラバラに動いている。動きがかなり堅かった。
将矢はとっさに手を上げた。待って、という格好で一歩前に出る。
少女の顔は不自然にそむけられていた。それでも、気配を感じたらしい。動きはますます堅くなっていく。ぎぎぎと体の向きが変わった。斜めになる。そしてとうとう背中が向けられた。
――行っちゃうよ。
狭い島だから、また会えるだろうという気はした。けれど、今声をかけておかなければならなかった。次に会ったとき、もっと気まずくなる。それはさけたかった。なんとか声をかけておきたい。声を絞り出そうとした。
両手を腰に当ててみた。そうして足を、力いっぱい踏んばった。大きく息を吸いこむ。それでも、声は出せなかった。ぐずぐずしてはいられない。少女が行ってしまう――。
だけど、少女が歩きだす気配はなかった。うしろ姿の髪だけが、風にゆれている。
――あれ?
やっぱり、そこに立っていた。
もしかして、話しかけられるのを待っているのかなと思った。友だちになりたい気持ちは、同じなのかもしれなかった。そうでなければ、とっくに歩きだしているはずだった。
少女の背中が、細く見えた。将矢はよしっと心を決める。
「ま、麻衣ちゃんに似てるよねっ」
なぜだか、そんなとぼけたことを口にしていた。思っていたことが、つい口をついてでたのだ。とんでもなく間抜けな感じがした。
少女に動きはない。
「……さ」
細いワンピース姿から、呟きがもれた。
将矢は身を乗りだした。えっ? と聞き返す。
「似てないさー」
意外にも強気な口調だった。不満そうな顔が、肩越しにのぞいていた。
転:少女が立ち去ろうとする。勇気をふりしぼって話しかける。
3時間
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