よみかく分室課題部屋

981 １０００字課題　5/28分　NO.6「旅行　一日目」

2004/5/28(金)16:24 - 白猫 - 7884 hit(s)

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起「旅行で目的地までバスに乗るが、まったく話せる雰囲気ではない」
承「ホテルの部屋に行ってもその雰囲気のまま」
転「緊張にたえられなくなりお茶を入れようとして他人にかけてしまう」
結「そのちょっとした事件のおかげで打ち解ける」

「次は終点彩玉、彩玉ー」
　車掌の声が聞こえる。もう終点だ。
「やっとついたね」
　僕は黒田に話しかけた。
「そうだな」
　ぶっきらぼうに黒田が答える。
　電車が止まりドアが開く。
「じゃ、おりよっか」
「おう」
　そう言って荷物を持ち、立ち上がる。そして、電車から降りる。そのまま、階段を上がり改札を抜ける。
「バスが来るのは確か西口だったよね」
「覚えてないな。しおり見れば書いてあるんじゃないか？」
　そう言われて、僕はしおりをでかい荷物から取り出す。
「あった、あった。うん、西口でいいみたい。じゃあ、あっちだね」
「行くか」
　二人して西口に歩いていく。西口を出ると観光バスが三台止まっていた。
「うちのクラスはＢだから、二号車だね」
　バスガイドさんに挨拶をして、二号車の中に入った。中はシーンと静まり返っていた。人はたくさんいるのに誰一人口を開いていない。とりあえず、あいている席に黒田と二人で腰を降ろす。とてもじゃないが、話せる雰囲気ではない。
（やっぱり、まだ慣れてないからかな。きっとバスが走り出せば、誰か話し始めるよね）
　ところが、僕の期待は裏切られた。走り出して数十分経っても誰一人口を開かなかった。いや、走り始めてからバスガイドの挨拶があったがそれだけだった。
（くそう、どうして誰もしゃべらないんだよ。隣にいる黒田君はもう寝てるし。僕も寝るしかないじゃんか）
　そして、僕は部屋で仲良くなれることに一縷の望みをかけて眠りについた。途中ＰＡで起きて昼食を買って食べたりしたが、バスが到着するまでみんな終始無言だった。
　昼と夕方の中間ごろ、バスは目的地の百葉ホテルについた。この後の予定は夜にちょっとした集まりがあるだけで後は好きなように過ごしていいらしい。
「部屋割りは出席番号順だから、僕は三階だ。うーん、黒田君とは出席番号ひとつしか違わないのに別々の部屋になっちゃったね。残念」
ホテルのロビーで話かける。バスの中では雰囲気が邪魔して話しかけられなかったが、ここはまだマシだ。
「そうだな。まあ別にいいんじゃないか」
「まったく、もっと残念がってくれてもいいじゃないか。まるで僕が一人で舞い上がってるアホみたいだろ」
「……」
　黒田はそのまま歩き去ってしまった。
「おーい、待っててば。何でそんなにそっけない態度とるかな」
僕は慌てて追いかけた。
「めんどくさいだけだ。俺は二階だから何かあったらくればいい」
　ちょっと安心した。僕のことをまったく無視する気はないようだ。
「うん、分かった」
　そこで黒田と別れ、僕は自分の部屋に行った。和室だった。そこには既に僕以外の五人全員が集まっているようだった。だが、やっぱり静まりかえっていた。みんなはもう着替えていたので、僕はひとまず制服から私服に着替えることにした。着替えた後、畳の上に座布団を出して円形のテーブルの前に座った。他の五人もそれに習う。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
（黒田君もそうだけど、みんなは何でこの無言に耐えられるんだろう？）
　僕は耐えられなくなり、円卓の中央にある急須に手をかけた
「お、お茶入れるね」
　そう言って急須の中にお茶の葉をいれポッドからお湯を入れた。そして、人数分のお茶を入れる。みんなの前に湯のみを置いた。だが、最後に手が滑ってしまい湯飲みの中身がこぼれる。
「あぢぃ！」
　目の前にいた坊主頭が悲鳴を上げた。どうやら、かかってしまったようだ。
「ご、ごめん」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ！マジで熱かったぞ」
「ごめん。本当にごめんよ」
　謝ることしかできない自分に腹が立つ
「はあ。しょうがないから、許してやるよ」
「本当！ありがとう！」
「俺は斉藤寛文ってんだ。お前は？」
「僕は佐伯一。君は心が広いんだね」
「ば、バカ。そんなんじゃねえよ。ほ、ほら、周りの奴らもさっさと自己紹介しろよ。まず佐伯の隣のお前からだ」
　言われて、貧弱な体格の分厚い眼鏡をかけた少年がビクっと体を震わせた。
「え、ぼ、僕？僕は些細健一っていうんだ。よ、よろしくね……」
「ほい、次はその隣のお前」
　目つきが鋭く、猛禽類のような少年だった。
「ああ。俺は酒井浩二だ。よろしくな」
「で、俺の隣のデブ、お前だ」
　いかにもオタクな感じのデブだった。
「初めて話すのにデブって言うなよぅ。僕にも高橋祐樹っていう立派な名前があるんだからな。以後、デブとか言った奴は僕ちゃんの必殺技でギッタンギッタンにしてやるからな」
「分かったよ、デブ。デブなんて呼んで悪かったな、デブ」
「むふぅ。デブって言ったな。くらえ、ロケットパーンチ！」
　斉藤に高橋がポカポカと殴りかかる。
「痛い痛い。わかったわかった。デブなんてもう言わないから、な」
「まったく。謝るなら最初から言うなよぅ」
「じゃあ、最後になったがお前の番だ」
　髪がボサボサで鳥の巣みたいになっている少年も自己紹介をした。
「俺かい？俺は田代与一っていうんだ。いい名前だろ？」
「じゃあ、自己紹介も済んだことだし、トランプでもやろうぜ」
「うん、やろうやろう」
「僕もやりたいです……」
「おう。俺もやるぞ」
「僕もやるよぅ」
「しょうがないから、俺もやるか」
　斉藤、些細、酒井、高橋、田代、これが今日から二日間過ごしていくメンバーだ。このメンバーとはこれからも仲良くやっていけそうな気がした。