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1138 2000字 掌編 NO.3 まこと
2004/11/23(火)15:54 - まこと - 1441 hit(s)

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「僕の苦手なお化けとあいつと」 2000字課題 NO・3 11/23 まこと 
 
 校庭でかげろうがゆれている。渡瀬は、窓から見下ろしていた。手でパンを細かくちぎっては、口へはこんでいる。
「先生! 渡瀬君が肝だめし大会したいって言ってます」
 高木が立ちあがった。高校生にしては背が高いほうだろう。
「肝だめしねぇ、したいか?」
 渡瀬は味気のないパンをのみこんだ。否定しようとする。
「したーい。センセー。おねがーい」
 女の子の黄色い声が響く。
「しょうがねぇなぁ。やってもいいが、おまえら、お行儀良くしろよ」
「きゃー、センセー、ありがとう!」
 渡瀬は「貞子」がCMに映っただけで、トイレに行けなくなる。それなのにクラスは大盛りあがりだ。元凶である高木をにらみつけてやった。
 高木は、お化けの手をまねた。白目をむく。
 渡瀬はくちびるをかみしめていた。
 肝だめしの日がやってきた。満月の晩である。沢口美紀が、長い髪をなびかせ、昇降口にかけつけた。だいぶ遅れている。目鼻立ちのくっきりした顔を、申し訳なさそうにさせた。係の美紀はくじ引きの箱を受け取った。
 渡瀬はその様子を見つめていた。
 美紀がくじを引く男子にからかわれる。とたんに、笑顔がはじけた。
 渡瀬はたまらなくなる。目をそらせてしまった。そらせたその目が、高木とかち合った。
 高木はにやりと笑った。
 ――しまった。気づかれたか?
 背中を、冷たい汗がつたう。
「はい、遅れてごめんね。渡瀬君、どうぞ」
 美紀が目の前にあらわれた。甘ったるいにおいがする。
 渡瀬は一歩さがった。
「僕? あ、そうか、くじだね」
 あわてて箱に手を突っ込む。時間をかけてかき回した。
 美紀とはペアを組みたい。だがそうなると、臆病なことがバレるのは必至だ。
 箱から紙を取り出した。かさかさと広げる。
「十五番。ラ、ラスト?」
 怖さ倍増じゃないか。そうは思ったが、美紀の手前がある。平静を保とうとつとめた。
「えっと、僕のペアは、と」
 くじをかざした高木が立ちはだかった。十五番と書かれている。高木のくじがうらめしかった。
 それから、数十分が経っていた。ふたりは理科室に到着した。折り返し点だ。雲間からのぞいた月明かりが、人体模型を照らす。笑っていた。
「ぎゃあ!」
 我慢もそれが限界だった。高木に抱きつく。
「わぁ! なんだよ、渡瀬。怖いのか?」
 ぶんぶん首を振って飛びのいた。しかし、身体は目に見えて震えている。
 高木はしばらく間をおいてから歩きだした。
「おまえ、美紀のこと好きだろ」
「と、突然、なにを言いだすんだよ!」
 渡瀬は自分が発した声にさえおびえていた。
「ちょろいぜ。誘ってみろよ」
「そんなこと」
「あいつんち、飲み屋でさ。母ちゃんの男ぐせがすっげー悪るいんだ。その娘なんだぜ」
 噂は、渡瀬も耳にしていた。
「よしなよ、そうゆう言いかた。やだな」
「この間なんかあいつ、体育館の裏で、男と抱き合ってたってさ」
 高木は笑い声をたてた。
「君って、人間性、低いね」
「なにを! せっかく攻略法を教えてやろうと……」
 渡瀬は最後まで聞かずに、走りだした。
「おい! 待てよ! 待てって」
 全速力で突っ走る。高木は追ってこない。大きな足音が廊下にこだましていた。
 校舎は、コの字型をしている。渡瀬は曲り角に挟まれた廊下で、高木を待っている。なかなか来ない。
 ――かばうべきだったよな。  
 渡瀬は、昇降口へむかう角を曲がった。
 高木がそこに立っていた。
「ばっかだな、校庭突っきれば近道だろ」
「バカ? どっちがバカだよ!」
「まあ、落ち着けって」
 高木が肩に手をかけてくる。いかつい手だ。
「はなせよ!」
「話聞けって。ゴールだよ。ゴール」
「だから、なんだよ!」
「だから、よくがんばったよ、渡瀬。さっきのは嘘だ」
 渡瀬の尻は、高木の膝に、けりあげられた。痛みはなかった。
「悪く思うなよ。おまえが怖がりだなんて、知らなかったんだからな」
 高木の背に、かけよるクラスメイトが見える。その背が一段と大きく感じられた。


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