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1274 「犬と猿と」 リテイク版 6/19 まこと
2005/6/19(日)11:19 - まこと - 2767 hit(s)

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「犬と猿と」 リテイク版 6/19 まこと

 チッ。
 会長の友則が舌打ちをした。
 話に熱中している役員たちには聞こえていない。ミーティングとかけはなれた話で盛りあがっていた。サッカー部のエースがフラれたとかドラマのエンディングで泣いたとか、大声で話している。
「例年どおり看板を作ります。いいですか」
 友則の話などだれも聞いていなかった。それでも続けた。去年の議事録を指でたどっていく。
「ええっと、看板作りでいいのかな。次は、っと」
 役員のひとりが先生のカツラのことを話題にした。聞いていた役員は体をそらせて笑う。その盛りあがりにおされ、友則は黙ってしまった。
「うるさいわね!」 
 友則の横にいた女子が、机をバンと叩いて立ち上がった。
 副会長の藤沢英子だ。
 おさげを手ではらって、メガネをクッと持ち上げる。
「あなたたち、なにしに来たのよ。おしゃべりしに来たの? そうなの? あきれた人たちね。それでも生徒会をしょってる役員なの? 選ばれてここにいるってことを忘れちゃったんじゃない? ミーティングに参加する気がないなら出ていって。迷惑よ」
 役員たちは身じろぎもしないで聞いていた。
「だいたい、会長も会長よ。注意ぐらいできないの? ああ、忘れてた。会長は友則だったっけ。じゃムリだ」
 英子はすましてイスを引き寄せた。ツンとして腰かける。
 友則と英子とは幼なじみだった。ささいな言い合いならば、しょっちゅうしている。
 ――ムリってなんだよ。
 友則の顔が赤くなっていく。
 あっけにとられていた役員たちも、姿勢をなおしはじめる。イスをガタガタさせる音やぶつぶつ文句をたれる声がした。英子のことをお説教魔人だとささやいている。
「せ、宣伝活動はチラシ配りをします。賛成の人は手を挙げてください」
 役員たちの手が、すみやかに挙げられた。
「では、看板を作る班とチラシ配りをする班に分けます」
 毎年かわりばえのしない内容だった。それでもパチパチと拍手をする役員がいた。
 友則は胸をはった。隣にすわっている英子をにらむ。
 ――ムリとか言ってんじゃねーよ。
 その後の話し合いで、友則がチラシ班のリーダーに選ばれた。翌日、チラシ作りをすることに決まった。
 しかし翌日、集合時間になっても生徒会室には友則しかいなかった。
「なにしてんだよ」
 しかたなくひとりでチラシ作りをはじめた。
 去年のものをまねして、上質紙にレタリングしていく。
 そこに役員の女子がやってきた。
「ごめーん、あたしとゆっぴぃ、吹奏楽の練習抜けらんなくなっちゃったの。チラシ作りはおまかせってことでいいかなぁ」
「え、そうなのか」
 上質紙の上に鉛筆がパタンと倒れた。
「あとさ、松村と金子、クラスの出し物手伝わされてたよ。わるいね、連絡するの遅くなって。携帯忘れちゃったんだ」
 女子は両手を合わせて頭を下げる。
「おうっ、こっちは大丈夫だ。まかせろ」
 友則が胸を叩いてみせた。女子はすまなそうに戻っていった。
「俺、レタリングが得意でよかったよな」
 鉛筆をしっかりと持つ。目玉のバザーのことを、飾り文字にしていった。
 仕上げたら印刷だ。職員室の隣にある準備室へ向かった。
 狭い準備室はインクの匂いがしていた。印刷機は教卓ぐらいの大きさだった。紙をセットする。スイッチを入れるとノロノロとチラシを読み込んだ。そしてカタンカタン印刷しはじめた。
 五十枚ほど印刷したところでピピーピピーというエラーを知らせる音が鳴った。
「やばい」
 印刷機の型は古く、あつかいづらい。エラーをだすと直すのに手がかかる。エラーメッセージにしたがって前面パネルを開いた。
 背中越しに、引き戸の開く音が聞こえた。
「チラシ班はひとりしかいないんだって?」
 友則は後を振り返った。英子だった。英子は印刷機に詳しい。友則は口を開きかけた。
「それだけ印刷すれば充分よ。チラシ配りは止めなさい。あんたじゃムリ。貼りなさい」
 友則の顔がくもる。
「ムリじゃねーよ。俺だけじゃねーし」
「知らないでしょうけど、チラシ配るのってけっこう大変なんだから。赤の他人の配るものなんて、簡単には受け取ってもらえないのよ」
「あーそー」
「なぁに、それ。こっちは看板作り抜けだしてまで、教えにきてあげたのに。ムカつくっ」
「どっちが!」
「印刷機直してあげようと思ったけど、知らない」
 英子が走り去っていった。
「クソッ」
 印刷機を蹴るとエラー音が止まった。おかげで、予定どおりの枚数を印刷することができた。
 そしてチラシ配りをする日がやってきた。
 友則は駅の改札口で、他の役員を待っていた。改札から出てくる人の波を見ている。ねらったとおり、学校帰りの生徒たちでごったがえす時間帯だった。ほとんどが制服姿だ。
 携帯が鳴った。あやまりのメールが入っている。メールは次々に入ってきた。チラシ班の人数分だけある。
 ――ったく、しょうがねーな、あいつら。でもま、忙しいんだろうしな。
 紙袋からごそごそとチラシを取り出した。それを見ていた女子の集団が、大きくうかいしていった。
 ――こんなに恥ずかしいもんなんだ。困ったな。みんなこっち見てる。
 友則はうつむきかげんになりながら、詰襟の男子に近寄った。
「よ、よろしく、お願い、します」
 目を合わせずに胸元へチラシをさしだした。体をよじらせ、通り過ぎていった。チラシは手に残っている。
 友則は焦った。歩きかたが小刻みになる。
 下を向いた男子にチラシをさしだした。すると受け取ってくれた。その姿を、目で追いかける。
 くしゃくしゃっと音がして、なにか投げだされた。丸められたチラシだった。
 ――ダメか。
 丸められたチラシを拾おうと、かがんだ。持っていたチラシが腕からすべり落ちた。あわててかき集める。
 下になっていたチラシはだいぶ汚れていた。
「もったいねー」
 けれど、汚れたチラシを渡すわけにはいかない。一枚ずつ汚れを確認しながらごみ箱に捨てた。丸められたチラシも、最後に捨てた。
 英子の言葉が思い出された。
 ポケットに手を突っこむ。もしものために用意してきたセロテープを握った。
 まっすぐに駅の掲示板に向かう。
 ――チラシ、貼ろう。
 力強く、掲示板の前で立ち止まった。意気込んで掲示板を見た。
 ポスターだらけだった。貼るスペースなどない。
 ふっと横を見ると電信柱があった。ざらざらのコンクリート面に、金属板が巻かれていた。金属板ならセロテープ止めができる。
 電信柱に広告を貼りだすのは、違反だった気がする。友則はきょろきょろした。
 自転車に乗ったおまわりさんがやってくる。とっさに電信柱から飛びのいた。
 電信柱もあきらめた。貼る場所をもとめて、駅前の商店街へと歩いていく。
 床屋のガラス窓を見て、これだと思った。自動ドアの前に立つ。
「すいませーん、チラシ貼らせてもらえませんか」
 開いたドアから、毛足の長い犬が近寄ってきた。白いしっぽを振っている。わんとひと声鳴いた。
「ぎゃあぁぁ、犬だ犬だ。吠えたぁぁぁ」
 店の人の返事を聞く前に逃げだしてしまった。チラシを抱えて歩道を走った。
「か、噛まれるかと思った。まだ、ドキドキしてる」
 息がきれて歩きになった。はーっと息を吐いて空を見上げる。赤らんできていた。からすの鳴き声が聞こえてくる。
「なにしてたんだろ、俺」
 立ち止まって、チラシを紙袋に入れた。体は学校の方へ向いていた。足を踏み出す。紙袋を振って歩いた。
 曲がり角から、人影が飛び出してきた。
「英子」
 肩を上下させながら、英子が走り寄ってくる。
「で? どうなの? おおみえをはった成果は。終わった?」
 紙袋に手を伸ばした。
「関係ないだろ」
 友則は紙袋を胸元に抱いた。
「関係あるじゃない。見せてよ。どうせまるごと残ってるんでしょ。あたしは副会長よ。知る義務があるの。よこしなさいってば!」
 紙袋の取り合いになった。友則は悔しくてムキになっていた。英子が紙袋を下へ引き抜く。
「このっ、メガネザルっ。なにすんだよ!」
 紙袋を抱いた英子が、友則をじっと見つめている。
「手伝うのよ」
「え」
「ひとりじゃ大変だったでしょ。チラシ配りにはコツがあるの。教えるから、来て」
 英子は友則がやってきた方角へ歩きだした。
 友則も並んで歩きだした。英子を不審そうに見る。
「チラシ貼ったほうが良くない?」
「貼るのも大変なんだぞ」
「そうなの? 配るより楽だろうと思ったのに」
 英子が声をおとした。
「ほら、ここがいいのよ」
 スーパーだった。
 買い物がえりのおばさんが袋をぶら下げて出てくる。
「まずにっこり笑って――よろしくお願いしまーす」
 英子がかわいい声をだした。おばさんの手もとにチラシをさしだす。
 おばさんはハイハイと受け取って歩いていった。
「学園祭のバザーはおばさんに人気があるでしょ。だからねらいめなの。それと、チラシは受け取りやすいように、さしだすのは手もとよ。はい、これ」
 チラシの半分を友則に渡した。英子は他のおばさんにもチラシをさしだす。
「毎年やらされてるから、覚えちゃったの」
 おばさんを見つけるたびにチラシを渡しにいく。
「さっきは、わるかったな。手伝ってくれて、あの」
「言っとくけど、私は副会長の義務だからやってるだけなの。カン違いしないでよね」
 英子の顔が夕焼けにそまっていく。
 友則は肩をすくめて、笑った。

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起(700)
・会長をまったく無視して、議事に関係ない話をしまくる役員たち
・机を叩き、うるさいと怒鳴る女子
・会長がだらしなさすぎだとも
・女子に反発した役員たちは、会長を支持
・議事がすみやかに進行しはじめる

承(1050)
・生徒会の活動は看板制作班とチラシ班に分かれている
・チラシ班のリーダーは主人公。だれも集まってこない
・それぞれ学園祭の準備で忙しいのだという
・ひとりでチラシを印刷をする主人公
・女子が様子を見にくる
・チラシ配りは止めて貼リ出すようにと、命令口調の女子
・言い合いに

転(1400)
・駅の改札口でチラシ配りをはじめる主人公
・知らない人にチラシを手渡すのは、意外と恥ずかしい
・なかなか受け取ってもらえない
・やっと成功するも、直後にポイ捨てされる
・拾おうとしてチラシを落し、汚損の激しい何枚かを捨てるはめに
・配るのは断念し、チラシ貼りに変更する
・チラシ配りもなかなか大変
・スペースがなかったり、怒られたり、犬に吠えられたり
・日が傾き、あきらめ気分の主人公
・学校へと向かう途中、女子が現れる
・イヤミを言い、チラシを強引に奪う女子
・ムカついた主人公に、以外にもねぎらいの言葉をかけてくる
・戸惑う主人公に、チラシ配りを手伝いに来たと告げる

結(350)
・スーパーでチラシ配りをするふたり
・女子にはチラシ配りの経験があった
・手際が良い女子に礼を言おうとする主人公
・あくまで生徒会のためと憎まれ口をたたく女子
・苦笑する主人公


〔ツリー構成〕

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┣【1220】 「ひと足早い夏」 短編の転 4/30 まこと 2005/4/30(土)15:44 まこと (2213)
┣【1221】 削除
┣【1222】 「ひと足早い夏」 短編の結 5/1 まこと 2005/5/1(日)18:27 まこと (2281)
┣【1223】 「ひと足早い夏」 短編の転(リテイク) 5/2 まこと 2005/5/2(月)21:59 まこと (2167)
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┣【1225】 「宝物のハンカチ」 短編の起 5/3 まこと 2005/5/3(火)22:45 まこと (2267)
┣【1226】 「宝物のハンカチ」 短編の承 5/4 まこと 2005/5/4(水)22:48 まこと (2828)
┣【1251】 「宝物のハンカチ」 短編の転 5/19 まこと 2005/5/19(木)18:31 まこと (3220)
┣【1253】 「宝物のハンカチ」 短編の結 5/21 まこと 2005/5/21(土)13:23 まこと (3022)
┣【1255】 「宝物のハンカチ」 完全版+補助輪付き 5/22 まこと 2005/5/22(日)00:24 まこと (10235)
┣【1257】 「宝物のハンカチ」 完全版+補助輪付き+改行修正済 5/22 まこと  2005/5/22(日)12:06 まこと (10482)
┣【1227】 「ひと足早い夏」 起のセルフリライト 5/5 2005/5/5(木)22:01 まこと (3145)
┣【1228】 「ひと足早い夏」 承のセルフリライト 5/9 2005/5/8(日)22:35 まこと (2216)
┣【1231】 「ひと足早い夏」 転のセルフリライト 5/12 2005/5/12(木)07:33 まこと (2300)
┣【1240】 「ひと足早い夏」 結のセルフリライト 5/15 2005/5/15(日)09:54 まこと (2347)
┣【1241】 「ひと足早い夏」 セルフリライト全文統合版(原稿用紙15枚) 2005/5/15(日)10:07 まこと (9672)
┣【1258】 「犬と猿と」プロット作成の練習 2005/5/26(木)22:01 まこと (4321)
┣【1262】 「犬と猿と」 短編の前編  6/4 まこと 2005/6/5(日)01:12 まこと (5511)
┣【1264】 「犬と猿と」 短編の後編  6/5 まこと 2005/6/6(月)00:14 まこと (7982)
┣【1265】 「犬と猿と」 統合版(修正有) 6/7 まこと 2005/6/7(火)17:29 まこと (9367)
┣【1274】 「犬と猿と」 リテイク版 6/19 まこと 2005/6/19(日)11:19 まこと (9033)

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