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1204 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字)
2005/3/6(日)22:26 - 名無し君2号 - 4397 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.12(4000文字)

 黙々とアシュは、銀色の階段を上っていた。
 階段は、塔の外壁にそってぐるりと螺旋を描いている。ぽっかりと空いた真ん中の
空間には、光の玉が灯りとして浮かんでいた。玉は間隔を空けて置かれていて、階段
を上るたびに、またひとつ、またひとつとあらわれる。
 最初、アシュは光の玉を数えていた。
 ――が、二十を超えたところで止めた。
 思いだしたからだ。ここがどういう場所なのかを。
 外から塔を眺めていたときには、ミューの塔とおなじ、五階建てぐらいに思えた。
しかしすでに十階分はゆうに超えて上っている。中央の穴から下を覗きこめば、ずら
りと光の玉が並んでいるだけで、床は見えなかった。
 異次元に浮かぶ、魔道協会の惑星。そこに建つ、魔道士が住まう塔。
 不思議が当然、に決まっている。
 それに……。
「疲れぬ、な」
 後ろのゾーククラフトは、すでにアシュの肩を借りずに歩いていた。光の玉に照ら
しだされた顔色も、元どおりの白さを取り戻している。
「ずっと上っておるのに、まったく疲れぬ。それどころか力が湧いてくるようだ」
「ここは普通じゃないんです」
 答えるアシュの体にも、活力が満ちていた。
 以前、一度ミューに連れられたときもそうだった。そのときもずっと階段を歩かせ
られたのだが、まったく疲労は感じなかった。
「それだけじゃねーぞ。気づいてるか、アシュ」
 前方でリズミカルに赤い髪のしっぽを揺らしていたミューが、にゃは、と八重歯を
見せた。
「時間の流れも変なんだぞ」
「時間……ですか」
「そーだ。だらだらと歩かせられているようで、じっさいは数秒のことなのさ。時間
と距離と感覚とをねじ曲げているんだ」
 原理も理屈も、アシュにはわからなかった。
 ただひとつ理解できたのは――
「だからミューさま、めずらしくブーブーと文句を言わなかったんですね。いつもだ
ったらもうとっくにキレて、『こんな階段があるのがいけないんだクラー』って、ぶ
っ壊してますもんね」
「まあなっ。でもさー、そろそろイラついてきたなー」
 軽く顎をしゃくれさせる。かわいく口が持ちあがった。
「やっちゃおっか?」
「なにをですか」
「いや、軽くだからさ。どかーんって、ちょっとだけ……な?」
 ぜったいダメです、とアシュはミューを後ろからはがいじめにした。いいじゃんか、
ダメです、ちびっとさ、ダメです、と、階段の上で揉みあいになる。
「こんな狭いところでなにをやっているのだお前ら。落ちでもしたら……ふむ。それ
はそれで面白いか。しかし、少々体を張りすぎではないか?」
「ボケてんのかジジイ。なんど私は超絶天才美少女魔道士だと――」
 ミューが後ろのゾーククラフトを睨みつけた。
 そのとき、アシュはぎらりとした輝きをとらえた。目をこらすと、よじれて開いた
マントのすきまから、ミューの胸元が覗けた。
 なだらかすぎる双球に、ふつりあいなほど大きい銀色の首飾りがある。
 これって……魔王さんが封印されていた……。
「お、お前ぇ」
 驚きと怒りがにじんだ声音に、アシュは我に返る。
 ぶん、と音が出そうな勢いで、ミューが首を後ろに振った。
 赤が視界を覆ったと感じた瞬間、暗闇に火花が散る。
「おっと」
 後ろにふっとんだアシュを、あやうくゾーククラフトが受けとめた。
「視姦しやがったなぁ! 魔法は半人前以下なのに、性欲だけは十人前か!」
 胸元を押さえながら、ミューは顔を真っ赤にしていた。
「ふ、普段はぱんつ一丁でも平気じゃないですかぁ」
「見せているのと見られているのとでは大違いだ! 女には野郎を惑わす権利がある
んだぞう! 権利侵害、権利侵害!」
「誤解ですよ、ぼくはなにもミューさまの胸を見ようなんて」
「む、胸! おっぱいがいっぱい!」
 瞳がみるみるうちにうるんでゆく。
 手のひらをアシュに向けて突きだした。
「浄化してやるぅー!」
「爆炎でですか!?」
「我もともに!?」
 ぎゅっとアシュはまぶたを閉じた。肩をつかんでいるゾーククラフトの手にも力が
こもった。腰の剣に手を伸ばそうとして、けっきょく止める。
 ――ミューさま!
『やめなさいな、ミュー』
 その声は凛と響いた。
 低く静かなのに、なぜか強い声に、アシュは目を見開く。ミューもぱちくりとさせ
ていた。
『初めてアシュから肉欲をぶつけられたからって、そんなに動揺しない』
「だ、だれが動揺してるんだよ!」
「肉欲はあんまりです!」
 顔を真っ赤にして吠えるふたりを、ふふふ……と笑い声が包んだ。
『べつに恥ずかしがることはないよ……子供だとばかり思っていた弟子が、いつのま
にか男になっていてびっくりしたんだろう? アシュ、きみもだよ。そのくらいの年
齢なら、むしろ女体に興味を持たないほうがおかしいのだから。……だけど、いまの
ミューに興奮するのは、いささか問題かもしれない。若さゆえのあやまちか……どっ
ちが?」
「だーかーらー!」
「でーすーかーらー!」
 ミューとアシュ、ふたりは顔をみあわせた。
 同時に、いまだ見えない塔の最上部を睨む。
「違うってー!」
 きれいにハモった。
『うん。こっちも冗談だよ』
 くらりとよろめいたミューを、アシュは支えようと手を伸ばす。一瞬びくりと固ま
ったミューだったが、すぐに身をゆだねた。
「お前の冗談は笑えねえ」
『首飾り……』
 うん? とミューは首をひねった。
 マントのなかに指を差し入れ、黒いワンピースの襟首を伸ばす。覗きこんだ。
「なんだよ。アシュ、お前、これを見たのか」
「そ、そうですよ。どうして魔王さんを封じていた首飾りをつけているんですか」
「ちょっと取引にな……ていうかアシュてめえ、やっぱりおっぱい見てたんじゃない
かー!」
「え、あの、その」
 腕のなかで睨みつけてくるミューに、アシュは口をもごもごとさせた。
「あのー、おっぱいというほど、山はなかったかと」
「うぬらーっ!」
『きみたち、いいかげんにする』
 脇にアシュの頭を抱え、腕ではさんでぎりぎりと絞っていたミューは、天井に向か
って唾を飛ばした。
「ルゼル! お前がいつまでも私たちを視てるからだろ! いいかげんにするのは―
―」
『だから、おいで』
 振り向いたミューと、抱えられていたアシュは、目の前に扉ができていたのを見た。
 たしかにさっきまでは階段があった。無限に続くのかと思われた。
 なのにいま、すぐ前には片手扉がある。シンプルな銀色の扉は、階段の行き止まり
についていた。ご丁寧に、天井まで手を伸ばせばつくところにある。
「いい趣味してるよ、まったくよー!」
 やつあたり気味に、ミューは把手を引いた。音もなく開く。
 大股でミューはなかに入った。首を固められていたままのアシュも、引きずられな
がら入る。
 残ったゾーククラフトは、しばらく白い顎髭をいじっていた。
「あやつをやりくるめるとは……この主人、なかなかのもの……」
 しきりにうなずきながら部屋に入る。
 自然に扉は閉まり、明かりも消える。すべてが暗闇に溶けた。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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