よみかく分室課題部屋

969 １０００字課題　5/23分　NO.2「ある夜の日常」

2004/5/23(日)17:45 - 白猫 - 6782 hit(s)

現在のパスワード

　雪がちらついていたある夜、畳敷きの６畳間で佐伯一は座布団に座り机に向かっていた。
「明日の予習もしたし。今日はもう寝るかな」
　畳の上から立ち上がり、押入れをあけ布団をしいた。寝転がり布団をかぶる。最近、天気の悪さが続いているせいで布団を干せなかったせいか少しほこりくさい。
　しばらくして
（うーん。眠れない……）
　このまま布団にいても眠れる気がしなかったので、数学の問題でもやるかと思い、布団から起き上がり机に向かおうとする。隣の本棚から参考書を取り出す。
「えーと、球の体積の出し方はっと」
　ガシャーン！
　参考書をめくっていると下の階で皿が割れたような音がした。参考書をめくるのを止め、部屋の障子を開け階段を降りてリビングに行った。階段を降りたところで皿が割れていたのが見えた。多分、食器棚の上に積んであったやつだ。
　両親も食器棚の向かいにあるドアから出てきた。数分前まで皿だったものが無残に散らばっていることに気づいたのであろう。
「もうすぐ一ちゃんの入試なのに皿が『落ちて』割れるなんて、不吉ねえ」
聞こえないと思ったのか、小声でそんなことを言っていた
「入試近いんだからそんなこと言わないでください」
「あら、聞こえてたの？ごめんなさいね」
「そんなことで結果は変わらんから安心しろ。そもそも入試というのはだな。本人の努力が――」
　話が長くなりそうだったので、親父をほっといて辺りを見回すと、食器棚の上に猫がいた。黒猫だ。どうやらこの猫が食器を落としたらしい。しかし、どうやってこの家に入ってきたのだろう？
「クロちゃん食器落としちゃダメじゃない。でも、どうしてクロちゃんがここにいるのかしら？寝るときには確かに私の布団のなかにいたのに。それに寝室のドアは閉まってたはずだし」
「ちょっと待てください。もしかして飼ってるんですか？一体いつから？」
「今日からよ。外で毎日餌やってたらなついちゃって連れてきちゃった」
「僕が猫嫌いなのは知ってるのにどうして猫を連れてくるんですか。しかもこの入試の近い時期に。」
「そう言われると思ったから秘密にしていたんじゃない」
「いや、あのですね。そういう問題じゃないんじゃないかと僕は思うんですよ」
「男の子なんだから細かいこと気にしちゃダメよ」
「はあ」
　いつもいつも飼えないのにどうして猫を連れてくるんだろう？
「明日でいいから元いた場所に捨ててきてください」
「えー。せっかくこんなになついたのにー。君だってここにいたいよねー？」
　猫に問いかける。
「ニャー」
　無責任に返事をする猫。
「ほら、この子もここがいいって言ってるじゃない」
「絶対、そんなこと言ってないと思いますよ」
「でも、どうやってリビングにきたのかしら？」
「ああ、多分それは私がトイレに行ったときに出たんだよ。まさかこんなことになると思わなかったからほうっておいたんだが……」
　そういう親父は只じっと皿を見つめていた。きっと、最近買ってきて使うのを楽しみにしてたんだろう。
「その猫絶対捨ててきてくださいね。そうじゃないと僕が放り出しちゃいますから」
「こんなにかわいいのに」
「じゃあ、おやすみ」
　まだ、文句を言っている母親を無視して階段を上がる。
（これだけ言っておけば大丈夫だろう……）
　ドアを開け布団の上に転がった。
「あっ。机の上の参考書を片付けるの忘れてた。まあ、明日の朝でもいっか」
　面倒くさくなって頭から布団をかぶった。
　さっきの騒動で少し疲れたのかぐっすり眠れそうだった。
　
　
　書きたかったもの
　平凡な家庭
　