よみかく分室課題部屋

978 １０００字課題　5/25分　NO.3「そしてすぐに旅行　その１」

2004/5/26(水)20:08 - 白猫 - 6763 hit(s)

現在のパスワード

　うちの学校は変わってると思う。入学式の次の日にはもう泊り込みの旅行にいくのだ。理由は簡単。クラスメイトとはやく仲良くなるためだ。確かに旅行に行けば、友達ができるかもしれない。しかし、佐伯一は不安だった。いきなり見ず知らずの他人と一緒の部屋で寝るのだ。誰だって不安になるに決まっている、そう自分を納得させ、畳敷きの部屋で一人静かに持ち物を確認をしていた。確認し終わると、バッグにそれらをつめて準備完了だ。バッグは針でついたら爆発しそうなほどになるまで膨らんでいた。
　もう十一時だった。明日も早いので今日はもう寝ることにする。立ち上がり、押入れを開け、布団を敷く。今日は暖かいので、掛け布団は必要なさそうだ。布団の上に寝転がると、心地よい弾力が返ってきた。彼は、そのまま深い眠りに落ちていった。
　携帯のアラームが鳴る前に起きた。布団から起き上がり携帯で時刻を見る。五時二十分。家を七時に出れば間に合うので早すぎる時間だ。二度寝も考えたが、眠くないのであきらめる。制服に着替え、階段をゆっくりと下りる。リビングではすでに母親が朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう。母さん」
　洗面所に行き、顔を洗い、鏡で寝癖をチェックする。どこぞの十万馬力のロボットみたいな髪型になっていた。面白くて、吹きだしそうになった。手早く水をつけ髪を撫で付ける。直った。
「あら、おはよう。今日は早いのね」
「何か興奮して、あんまり眠れなくて」
「今日の朝ごはん、何？」
「ご飯と味噌汁とアジの開き。もうできるから座って待ってて」
　椅子を引き座る。
　炊きたて作りたてのご飯と味噌汁、アジの開きがテーブルに置かれる。
「いただきまーす」
　箸をとり焼き魚に手をつける。
「そういえば、父さんは？」
　食べながら聞く。
「今日は早出だから、もう行ったわよ」
「大変だね」
　朝食をご飯粒ひとつ残さずに平らげおなかが一杯になったので、自分の部屋に戻る。時刻は六時。とりあえず、布団を押入れにしまう。まだ余裕があるようなので、パソコンのスイッチをつける。適当にサイトを巡回して時間を潰す。時間になったので、岩のように重いバッグを肩にかけ階段をおりた。リビングに行き玄関で靴を履く。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
　玄関を出る。視界一杯に雲ひとつない青空が広がる。遠足日和だ。
　徒歩で駅に向かう。バッグが重いので、油断するとひっくり返りそうだ。数分歩いただけで駅に着いた。まだ二回しか改札を通っていない定期で改札を通り抜け、ホームで電車を待つ。次の電車まであと二分だったが、その四分後の急行の方が早いからそれに乗ってゆくことにする。電車が来た。電車のドアが開く何故だか中は空いていた。一番端の席に陣取る。入ってきたときには気づかなかったが、近くで言い争いが聞こえてきた。見覚えがある制服を着た少年と頭がバーコードなサラリーマンだとおぼしき人物が立ち上がって言い争っていた。みるとその少年の傍らには彼が持っているのと同じぐらいでかいバッグも置いてあった。こんなでかいバッグを普通は持ってこないから同学年だろう。顔をよく見てみた。驚いた。確か出席番号が一つ前の黒田とかいう奴だった。何を言い争っているのかと耳を澄ましてみると、理由はどうやらこんなことらしい。黒田が車両内を移動中に荷物がバーコードに当たって、黒田はそれに気づかずに通り過ぎようとしたが、バーコードが引き止めた。そして、今の言い争いに至るらしい。聞いていると言い争っているのではなくバーコードが一方的に騒いでいるだけということがわかった。
「君は人にぶつかっておいて、謝りもしないのかね」
「……」
　黒田は無言だ。
「無視はないだろう。人にぶつかったら、まず謝るんだ」
「……」
　自分でもどうしてかわからないが、次の駅で黒田の荷物と黒田を引きずって、次の駅で降りた。重かった。二人して駅のベンチに座る。
「……」
「……」
　無言の空気に耐えられなくなり話しかける。
「ねえ、どうして何も言わなかったの？」
「……めんどくさかったから」
「あのまま、騒がれるほうがめんどくさくない？」
「別に。無視してればそのうちあきらめると思ってたし。お前も俺のことなんかほっときゃいいのに」
「どうして君を連れ出したのかは、僕にも分からないんだ。それよりも、君同じクラスの黒田君でしょ？」
「そうだ。しかし、お前は変わった奴だな。普通ならほっとくようなことに首つっこんで、自分でも理由が分からないとかいってやがるし」
　そう言ってクックックと笑っていた。ちょっと安心した。
「僕は佐伯一っていうんだ。これから、よろしくね」
「佐伯っていうのか。俺も実は誰も話さないから少し不安だったんだ。こっちこそよろしくな」
電車が来たので二人で立ち上がった。早くも新しい友達が一人できたことで、佐伯一が当初感じていた不安はなくなっていた。