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1189 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1
2005/2/12(土)01:28 - 名無し君2号 - 4807 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.1(2600文字)

 赤と青。ふたつの月が空に浮かんでいる。混ざりあった月の光は紫と化して、真夜
中のアルハイム大陸を気高い色に染めあげていた。
 高貴な光は、切りたった高い崖にも注がれている。
 崖の上に立つふたつの影にも。
 吹きすさぶ風が、小さな影と大きな影、ふたりを強く撫でていた。小さい影がまと
っていた黒いマントが広がり、なかのワンピースを覗かせる。マントとおなじく黒い
生地に、真っ赤な糸で複雑な刺繍が描かれていた。浮きあがった体型はなだらかで、
裾から伸びた足は細い。
「ふん……エラソーに広がってやがるよな。聖王都だかエセ王都だかしらないケド」
 かわいらしい女の子の声だった。
 はためく赤い髪にふちどられた顔は、まだまだ幼い。もっとも、あどけなさはかけ
らもなかった。鋭く目を尖らせ、口元を歪めている。視線ははるか遠くに据えられて
いた。
「エセ王都って、ミューさま」
 たしなめるような声をあげたのは、少女のとなりに立つ少年だ。
「聖王都メイルウィンドは、いちおう『アルハイムの聖女』とも称されているんです
よ」
 癖のない黒髪を風に踊らせながら、少年はまっすぐな瞳で少女を見おろしていた。
緑色の上着から伸びた、白い長袖に包まれている左手が、腰から下げた剣の柄に置か
れている。細長い剣は月明かりに照らされ、ほんのりとではあるが、銀色に輝いてい
た。
 けっ、と少女が吐き捨てた。
「アシュ。おまえはまーたどこかでガジガジした知識だけでものを語る。あんなもん
がなー、聖女であってたまるかよー」
 幼い声で毒づきつつ、びしっと叩きつけるように腕を伸ばした。
「あれはな、むしろ毒婦とゆーの。ちったあ歴史をひもとけ」
 指先は崖のはるか下、地上に広がる街並みへとぶつけられていた。都市は円形の城
壁に囲まれている。街の中央はさらに城壁で囲まれ、なかでは城が堂々とした姿を見
せていた。本来は純白であろう壁は、いまはおだやかな紫色に染まっている。
「とくにあっちはひどいぞ。腐臭がするぞ」
 ミューの指先が、みっつの尖塔を伸ばした城から、さらに向こう、ほとんど外側の
城壁に近い場所にある建物へと移動した。平べったい正方形の建物は、城とおなじく
純白の肌を紫に変えていた。
「あれは……神殿ですね。メイルウィンドが聖王都と呼ばれるゆえん」
「お金が大好きな神さまを奉ってる神殿なー。聖女のふりしてバカどもを騙くらかし
てんだもん。ハナっからやり手ババアだってさらしゃあいいのにさっ」
 ふふふん、とミューは鼻で笑った。
「ま、このさい聖女でもなんでもいーや。なんてったって――」
 唇の端を曲げる。
「聖女さまはこれから私たちに襲われるんだからなっ!」
 ひときわ強い風が吹いた。アシュは手で風を遮るが、ミューはおかまいなしで高笑
いをあげていた。頭の後ろでまとめた、赤髪のしっぽが泳ぎまくる。
「にゃははははーっ! まったく、陵辱するにはいい夜だなーっ!」
「高らかに下品な宣言をしないでください」
「きさま、弟子が師匠に説教するか」
 いまにも噛みつきそうな顔を見せる。八重歯を剥きだしにするも、怖さよりもかわ
いさのほうが勝ってしまっていた。
「そんなことよりミューさま、いったいどうやって聖王都に侵入するんですか? も
ちろんご存じだとは思いますが、メイルウィンドは『魔法の杖』によって守られてい
るんですよ。聖王都に害意を持つものを排除する、不可視の結界が張られているのは
有名です」
「もちろんご存じだよ。まあまかせろ。ようするに、害意がなけりゃいーんだ」
 アシュは首をすこしだけ傾げる。
「害意がなければって……だってミューさまは魔王を復活させ」
「さあ、いっくぞーっ!」
 ぶんぶんとミューは腕を振り回す。
 そのまま、なにもない空間に腕を突っこんだ。肘までが見えなくなる。引き抜いた
とき、手には木製の棒が握られていた。ずるずると引き出されたのは、古びたほうき
だった。
「ミューさま、ぼくたちに害意がないわけが」
「ほらほらほら、さっさと乗れ、アシュ!」
 取り出したほうきにミューはまたがっている。こらえきれない様子で、体を上下に
揺らしていた。
 アシュは深々と息をはき、ほうきの後ろへとまたがった。しっかりとミューの腰に
手を回す。がっちりとつかんだ。
 ミューの眉間にわずかに皺が寄る。
「ふんっ」
 気合いとともに、ふたりが乗ったほうきが地面から浮きあがった。
 うらーっ、という叫び声をミューがあげる。
 なにか弾ける音がしたとたん、凄まじい勢いでほうきは聖王都へ向かって飛びだし
ていった。かすかにアシュの悲鳴を残して。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
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┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
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┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
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┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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