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1197 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字)
2005/2/26(土)01:29 - 名無し君2号 - 4277 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.8(5000文字)

「ゾフィル!」
 ようやく銀髪の男が笑い声を止めた。
「これはこれは失礼しました。魔王ゾーククラフト陛下」
 声にはたしかな感情が覗いていた。
 それは――侮蔑。
「いや……もはや魔王ではありませんね。魔力のない魔王など、まったく悪い冗談。
いまのあなたはただの醜い老人にしかすぎない」
 魔王は薄笑いを浮かべながら聞いている。
「ならばどうする。醜い老人の元からは去るか?」
「魔力のない魔人など、存在する価値すらない――でしょう?」
 どこかで聞いたことのあるセリフとともに、ゾフィルの姿が揺らいだ。まわりの空
気が、白く濁ってゆく。
 ひんやりとした風が、アシュの頬を撫でた。
 嫌な記憶が甦ってくる。氷雪の女王に気に入られ、氷づけにされてしまったこと。
そのときとおなじ匂いを嗅ぎとっていた。
 銀華のゾフィル……氷結系魔法の使い手か。
「おろかだな。つまらぬ、まったくもってつまらぬ」
 首を振りながら、魔人は片手をあげた。背後に控えた魔人たちが横に広がる。
「ゾフィルよ。いくらお前の力が配下のなかで頭抜けていようと、三対一ぞ。勝てる
つもりでいるのか」
 銀髪の魔人の唇が、ゆっくりと笑みをかたち作った。
「お前たち、手を出すなよ。それは私のものだ」
「――わーかってるよ、ゾフィル」
 しゃがれた声は包帯魔人、ジャンダルから発せられた。
「な……なに?」
 うーん、と背伸びをしながら、シリナが驚きに口を開けた魔王の横を通り過ぎてゆ
く。ゆたゆたと豊かな胸を揺らしていた。
「ひ弱なお爺ちゃんより、たくましい美青年よねえ、やっぱり」
「うがうご」
 重々しい足音をあげながら、コントラがあとに続いた。ジャンダルがひらひらと黒
包帯を舞わせて、魔王の元を離れてゆく。
 三人の魔人は、ゾフィルの後ろに並んだ。
「さて陛下、どうします?」
 ゾーククラフトは目をむいたまま、返事もできない。
「ミューさま、なにやらえらいことがおきてますよ。ミューさま、ミューさま?」
 強い舌打ちが耳を打つ。
「にゃろう、私を利用する気か」
 いまいましげに睨んでいた。その視線の先では、魔人たちを従えたゾフィルがうや
うやしく魔王におじぎをしている。
「お別れです、ゾーク。我が師よ。せめて最後は私の手で――」
 ゾフィルをとりまく冷気が、ふくれあがった。
「死ね」
「ちょっと待てーい!」
「ミュ、ミューさま?」
 ずかずかとミューが、緊張感に満ち満ちた空間へと踏みこんでいった。
 魔王は無視、背を向けてゾフィルに向き直る。
「どうしたのかな、超絶天才美少女魔道戦士」
 いまならはっきりとわかる。ゾフィルの声にはあざけりが隠れていた。
「ちゃんと名前で呼べよ、美肌ヤロウ」
 くっく……とゾフィルは笑いをこぼす。きらきらと白い肌がきらめいた。
「これは失礼。魔女ミュー、いったい私になんの用かな? いま私はひどく忙しいの
だが……それとも、そのゴミの代わりに遊んでくれるのかな」
「こんなカスなんか知るか。私が言いたいことはただひとつ」
 ゴミだのカスだの呼ばれた魔王の顎が、外れそうなほどに開く。
 ふむ? と続きをうながすゾフィルの前で、ミューは思いっきり息を吸った。ア
シュは耳をふさぐ。
「人さまの家で、暴れんじゃねーっ!」
 びりびりと空気が震えた。
 あまりの大声に、岩石魔人は体から小石を落とし、包帯魔人は包帯がずれた。シリ
ナは顔をしかめている。ゾフィルだけが、ひとり平然としていた。
「おとなしくしてないと、封印しちゃうぞ!」
「できるものならどうぞ」
「にゃにおぅ! 私がホンキじゃねえとでも思ってるのかい!」
 ワンピースの袖をまくりあげ、ミューはぐいと片足を踏みだした。それなりに凄み
のある構えだったろう、子供の姿でさえなければ。
「もちろん本気だろうね。だがミュー、お前にはできない」
 ぬ、とひと声あげたミューの前で、ゾフィルが顔をぐるりと回す。壁に床に天井、
いたるところで光り輝く魔法陣の文字を眺めた。
「この結界……相手がひとりなら充分に効果を発揮しただろうが」
 どき。
 そろそろとアシュは師の様子をうかがった。
 ミューは満面の笑顔を浮かべていた。見るものすべてを明るくさせる、完璧な笑み
だった。普段はぜったいにしない笑みでもある。
「いったいなんのことかしら〜?」
 ――あ、こりゃ図星だ。
 こんな表情のときは、間違いなくこの場をごまかそうとしているのである。前に
ミューがこの顔を作ったのは、自分の師である魔女に思いっきり詰められているとき
だった。
 そのすぐあとで、彼女は子供になる呪いをかけられたのだが。
「お前にも予想外だったのだろう。魔王以外に、私たちまでが封印されていたことは。
ふふ、なんといっても、魔王が肉体と魔力、ふたつに分けられて封じられていたこと
すら、お前は知らなかったのだから」
 紫色の唇から、低い笑い声が洩れる。
「残念だが、この魔法陣では四人の魔人を抑えきることはできない。それは自分が一
番よくわかっているんじゃないのか、ミューよ」
 すでに魔王は数に含まれていなかった。
「……そう思うんだったら、試してみればいーじゃん」
 ミューは構えを取った。左手を前に伸ばし、右手は後ろにと、体を斜めにする。あ
わててアシュは駆けよった。
 めんどくさがり屋の師が構えを取ったということは――本気だということだ!
 銀剣を銀髪の男に突きつける。
 ふ……。
 ゾフィルが薄く笑った。まったく恐れた様子はない。
「魔女ミュー。お前には心から感謝している。おかげで、私たちは念願をかなえるこ
とができた。私たちは師を超えることができた」
 視線はミューとアシュ、ふたりの後ろへと向けられていた。
 ――師?
 なにやら封印を解かれたときよりも老けた顔の魔王を見やりながら、アシュは思い
だしていた。ミューが師より呪いをかけられたと聞いたときの、ゾフィルの表情を。
それは、ずっと氷の壁のようだったこの魔人が、初めて生の感情を見せた瞬間だった。
 魔王とか魔人って……なんなんだ? 師弟関係?
「だから――」
 首筋がちりちりと逆立った。
 振り向いたアシュが見たものは、白く霞むゾフィルの姿だった。
「せめて、苦痛のない死をあげよう」
「ちょっと待ってください! もう少し話しあいをですね……」
 急激に下がってゆく温度のなか、アシュは白い魔人に向かって片手を広げた。剣は
据えたままだ。
「無駄だよ」
 声はとなりから発せられた。
「こいつら魔人どもは、私たち人間なんかなんとも思ってない。魔力なきものは存在
しないのとおなじ。存在しないものと話しあいはできない。しなーい」
 つまらなそうにミューは唇を曲げた。
「だって、ぼくたちがやられなきゃいけない理由がないじゃないですか! ミューさ
まが復活させたんですよ? 感謝されこそすれ、どーして殺されなきゃならないんで
すか」
「お前たちを生かしておく理由もないな」
 ただでさえ寒いなか、アシュの背中を冷たいものが走る。ゾフィルの声から、また
もや感情が消えたからだ。
 冷気が肌に張りつき、動きを鈍くさせる。体は震え、吐く息は白くなった。
「あえて理由をつけるなら……そうだな。ゾークひとりだけでは淋しいだろう。お前
たちもついていってやってくれ。せいぜい地獄で笑わしてやるといい」
「だから芸人じゃねえっつーの!」
 そのとき、冷気で白くぼやけていたゾフィルの姿が、いきなり鮮やかとなった。
「くそっ……!」
 ミューがアシュの手を握る。
 たちまちのうちに、白い輝きがアシュの視界を覆いつくした。
 いちどだけアシュにはおなじ経験があった。ミューに連れられて氷雪の女王に会い
にいったとき、彼女の住処《すみか》である雪山でのことだった。
 地鳴りとともに、はるか山の上部から滑り落ちてくる白い波。
 たしか、雪崩れといった――
 そのときとおなじように、アシュは純白に呑みこまれた。消えゆく感覚のなか、た
だひとつだけ、つながれた手のぬくもりだけがいつまでも残っていた。



■元のプロット

・魔王が魔力を失っていることが判明する。とたんに魔王の配下、裏切る。前々から
  あなたの態度が気に入らなかったと、全員に三行半を突き立てられる。わめく魔王
  は配下全員の攻撃を受ける。魔王ごと塔は吹き飛ぶ。どこかへ去ってゆく魔王の配
  下たち。


■言い訳

 なんだかだらだらとしてきました。
 もっと、すっぱり、しゃっきりといきたいです。あと5000文字くらいでここの
章は終わると思うんですけども。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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