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1200 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字)
2005/3/2(水)00:46 - 名無し君2号 - 4545 hit(s)

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 ろり魔女(仮)No.10(3600文字)

 む、むぐぐ。
 ぶよぶよしたゼリーをむりやりに通り抜けてゆくような、そんな気持ち悪さ。目を
開ければ、飛びこんでくるのはピンク色の激しい流れだけ。
 ――なんど来ても、な、慣れない。
 魔法協会へと続く、異次元の通り道をアシュは飛んでいた。
 ミューに手を引かれて、体にへばりつくほどに密度の濃い空間を、ずるずるずると
強引に渡ってゆく。となりでは、ミューに襟首をつかまれた元魔王のゾーククラフト
が、ただでさえ多い顔の皺をさらに増やして、大きく目をむいていた。
「おう、お、おお、おおう? うほう!」
 魔人としての威厳はかけらもない。だが、アシュにも気持ちはよくわかる。
 頬をぬめる感覚は、息を吸うことすらはばかられた。できることならあまり来たく
はない場所だった。
 だけど、もうすぐ。
 ほら、光が見えて――
 わずかに開けたまぶたのすきまから、まばゆい光が差しこんだ。前を飛ぶミューが
光の渦に飛びこむ。引っぱられるままに、アシュも入りこんだ。
 閃光に目がくらむ。
 ぬるん、と体が飛びでた。なにも押さえつけるもののない、解き放たれた空間。よ
うやくアシュは息をついた。
 ちょっと解放されすぎた空間であることを、ふわふわした足元が思いださせてくれ
た。
 まばゆさにくらんでいた視界が晴れてゆく。
 最初に目についたのは、またもやピンクだった。
 網の目のように伸びる真っ白な雲。そのすきまに、桃色のけばけばしい空間が広が
っていた。ぽつんぽつんとある建物は銀色で、強すぎるコントラストがじつに目に痛
い。
 雲で作られた、穴だらけの球体。
 その内側にこの世界はあるのだった。
「はは……」
 魔法協会――正確には、魔法互助協会。
 異次元のなかに作られた、魔道士たちの人工的な植民地。
 ほとんどの魔道士たちがこの幻覚じみた世界に住んでいる。例外といえば、ミュー
のようなちょっとわけありと、現実世界であるアルハイム大陸で生きることを選んだ
ものたち、いわゆる聖導師だ。
「いつ来ても……」
 頭上を見あげれば、光の塊がまばゆく輝いている。
 これは太陽の代わりだった。夜の時間になれば、こんどは月として、おだやかな光
で照らす。この人工的な灯火は、雲の球の真ん中にすえられていた。
 現実世界とは、構造が逆らしい。惑星とか宇宙とか……いまいちアシュは理解して
いなかったが。
 ただ、これだけはわかる。
「やっぱり、変だ」
「バーカ」
 肩ごしに、ミューがにやにや笑いを見せた。
「ここは魔道を統べるものの住まう地、不思議が当然、魔法協会だぞ。このぐらいイ
カレてなくてどーするよ」
「ミューさまはいいですよ。ここで育ったんですから」
「お前だってほとんどここで育ったようなもんだろ。私に拾われたのはいつだった」
 瞬間、アシュの意識は過去へと飛んだ。
 あたり一面の瓦礫。半分も姿を残していない建物。黒こげた壁。鮮やかすぎる青い
空。血の匂い。焼ける匂い。死の匂い。なにかが燃える音。吹きすさぶ風の音。人の
声、どこにもなし。
 ――そして、目の前には赤い髪の女性。
 手にほうきを持って、彼女はアシュを見おろしていた。
『お前ひとりか? 親は? 名前は? なにがあった? 戦争か?』
 どう返事をしたのか、アシュは覚えていない。
『ふうん』
 覚えているのは、つぎの質問に対する答えだけだった。
『じゃあ、私と来るか?』
 笑顔とともに差しだされた手を握り返し――
『……はい』
「そうだよ、こんなちっちゃいときじゃんかー?」
 アシュは我に返った。
 目をぱちくりさせるアシュの前で、ミューは自分の頭上に手のひらを持っていき、
水平に動かしていた。思わずアシュは微笑んでいた。
「そうですね。いまのミューさまぐらいですね」
「だろ。ということは、まだまだ子供ということで……」
 だんだんミューの顔から明るさが消えていった。
「こ、子供……まだまだ子供……」
 ついには肩を落とした。
「ミューさまミューさま、ファイトです、ファイト!」
「うるへーっ! お前がいつまでたってもここに慣れないから悪いんだ! だいたい
にしてなー、魔法もいっこうに覚える気がないしよー」
「す、すみません」
 涙目で睨みつけていたミューの顔が、にへら、と崩れた。
「ま、あれよりはマシか」
 あれ? とアシュが振り向いた先では、白髪の老人がしゃがみこんでいた。青ざめ
た顔で、眼をどんよりとさせている。
「……元魔王さん」
「情けねーよなー。こんなんでよく魔王なんか名乗れたよなー。これじゃ配下にクー
デターを起こされるはずだよなー」
「お、お前ら……」
 うっぷ、と口元を押さえる。
「我に時代にはこんなものはなかったぞ。魔道の中心といえば、天空都市ヴァルガこ
そがそうだったのだ。あのような気味の悪い道を通るなぞ……ヴァルガはいったいど
うしたのだ」
「とっくに墜ちた。ジジイが封印されて、どのくらい経っていると思うんだよ」
「ぬ、ぬ……」
「魔王さまともあろうものが、異次元を抜けたぐらいで酔うたあねえ。にゃはははは」
「ミューさま、ご老人をいじめるのはもうそのぐらいで。早く例の……情報屋ですか、
その人のところに行きましょうよ」
 うさんくさいものを見るようにアシュは目を細め、口を引き結んだ。
「ちっ、しかたないなっ。じゃあ行くか!」
 軽やかな足どりで、ミューは雲の道を歩きだした。
 道はなだらかな坂道で、見あげればどこまでも続いている。球体の内側だからこそ
の風景に、やっぱり慣れない、とアシュはため息をついた。



■元のプロット

○3、魔道互助協会

 魔道互助協会
・ピンク色の雲のなか、細い回廊でつながっている都市。魔王を引き連れているとい
  うのに、まったくミューに興味を示そうとしない、仮面をつけた魔法使いたち。
  ミューたちは、魔王が封印された場所を教えて貰った情報屋の元へと向かう。

※奇妙な世界を描く。


■言い訳

 新しい世界を描くのは、いつでも大変です。まあ、楽しくもあるのですが。
 今回は魔法使いたちの本拠地ということで、できるだけ変な世界にしました。頭の
なかに映像を浮かべるのはけっこう簡単なんですが、それを文章にするのがしんどい
ったらない。どんな場所なのかの説明を、なるべく説明ぽくなく書くのが……むーん。


〔ツリー構成〕

【1139】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」ねっこ 2004/11/24(水)00:20 名無し君2号 (149)
┣【1140】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」あらすじ(800文字) 2004/11/24(水)00:22 名無し君2号 (1820)
┣【1141】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分(原稿用紙29枚) 2004/11/24(水)00:28 名無し君2号 (18303)
┣【1155】 2号長編、「天帝の騎士(仮)」冒頭部分改稿(原稿用紙21枚) 2004/12/2(木)01:08 名無し君2号 (13785)
┣【1188】 『ろり魔女(仮)』プロット 2005/2/11(金)01:20 名無し君2号 (19780)
┣【1189】 2/11分、『ろり魔女(仮)』本文、No.1 2005/2/12(土)01:28 名無し君2号 (3822)
┣【1190】 2/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.2(8400文字) 2005/2/13(日)15:11 名無し君2号 (12180)
┣【1191】 2/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.3(文字) 2005/2/16(水)00:56 名無し君2号 (12167)
┣【1192】 2/16分、『ろり魔女(仮)』本文、No.4(7700文字) 2005/2/17(木)01:49 名無し君2号 (10266)
┣【1194】 2/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.5(5000文字) 2005/2/20(日)03:43 名無し君2号 (7975)
┣【1195】 2/21分、『ろり魔女(仮)』本文、No.6(10000文字) 2005/2/22(火)01:25 名無し君2号 (14776)
┣【1196】 2/23分、『ろり魔女(仮)』本文、No.7(6400文字) 2005/2/24(木)02:36 名無し君2号 (9828)
┣【1197】 2/25分、『ろり魔女(仮)』本文、No.8(5000文字) 2005/2/26(土)01:29 名無し君2号 (7024)
┣【1198】 2/26分、『ろり魔女(仮)』本文、No.9(11000文字) 2005/2/26(土)21:24 名無し君2号 (15477)
┣【1200】 3/1分、『ろり魔女(仮)』本文、No.10(3600文字) 2005/3/2(水)00:46 名無し君2号 (5197)
┣【1201】 3/3分、『ろり魔女(仮)』本文、No.11(3600文字) 2005/3/4(金)00:12 名無し君2号 (3416)
┣【1202】 No.11、ボツ版 2005/3/4(金)00:18 名無し君2号 (4173)
┣【1204】 3/5分、『ろり魔女(仮)』本文、No.12(4000文字) 2005/3/6(日)22:26 名無し君2号 (5763)
┣【1207】 3/8分、『ろり魔女(仮)』本文、No.13(16000文字) 2005/3/10(木)00:42 名無し君2号 (21483)
┣【1208】 3/12分、『ろり魔女(仮)』本文、No.14(17000文字) 2005/3/12(土)22:41 名無し君2号 (22201)
┣【1210】 3/14分、『ろり魔女(仮)』本文、No.15(5000文字) 2005/3/14(月)18:54 名無し君2号 (7682)
┣【1211】 3/15分、『ろり魔女(仮)』本文、No.16(9000文字) 2005/3/16(水)01:13 名無し君2号 (12155)
┣【1212】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.17(28000文字) 2005/3/20(日)17:01 名無し君2号 (35837)
┣【1213】 3/19分、『ろり魔女(仮)』本文、No.18(7200文字) 2005/3/20(日)19:14 名無し君2号 (9870)
┣【1214】 『ろり魔女(仮)』全文統合版(124ページ、原稿用紙327枚) 2005/3/21(月)08:38 名無し君2号 (207911)

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