よみかく分室課題部屋

1186 「風に乗って」　１０００字課題　Ｎｏ．９　１/２３　まこと

2005/1/23(日)19:38 - まこと - 4099 hit(s)

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「風に乗って」　１０００字課題　Ｎｏ．９　１/２３　まこと

　新太郎が自転車ごと勢いよく転んだ。ひざに痛みがある。見ると血が滲んでいた。補助輪を取るのはまだ早かったかなと思う。だけどケン坊もシゲちゃんもひとりで自転車に乗れるのだ。補助輪がついているとみんなに遅れをとる。　
　川原のグランドに白い曲線が描かれていた。長い影が線上のシロツメクサに重なる。
「痛いよぅ」
「なんだそれくらい。バンソウ膏貼ってりゃ治るって」
　パパはポケットから紙の包みを取り出した。包みをビリッと破く。そうして新太郎のひざにバンソウ膏を貼ってくれた。
「いっちょあがりっと」
　倒れていた自転車も起こしてくれる。　
「ねぇパパぁ。どうやったらひとりで乗れるの？」
「そうだなぁ。もっと思いっきりこいだらどうだ」
「えー。僕いっぱいこいでるよ」
　パパからハンドルを受けとった。自転車にまたがって右足をペダルにかける。地面をけって前に進んだ。
　パパはうしろをつかんでいるはずだ。ドタバタした足音がついてきている。
　思いっきりペダルを踏んでいた。
　するとハンドルが急に軽くなった。手を離したのだとすぐに分かった。
　怖くなった。ペダルを踏む力がヘナヘナになる。
　ハンドルがぐにゃぐにゃになった感じだ。そして本当にぐにゃっと曲がった。
　とっさに目を閉じる。
　――痛っ！
　パパは飛んできてくれた。
「僕さぁ。きっと、いつまでたっても自転車に乗れないんだよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。大人になっても、僕だけずーっと乗れないままなんだ」
　パパに抱き起こされた。目と鼻が熱くなる。見られたくないからこぶしで目をぐりぐりした。
　ひとりで自転車に乗りたい。でも何度やっても乗ることができないんじゃないかという気がした。
　パパは自転車のスタンドを立てている。
　その姿がぐにゃっとなった。
　パパが大股で寄ってくる。大きな手に背中を叩かれた。
　ひんひん泣きながら自転車にまたがった。うしろから力強く押される。
　足がぱんぱんに張っている。その足でペダルをこいだ。思いっきりこいだ。
　目から涙が落ちた。止まらなかった。耳は風の音を聞いている。
　はぁはぁ息をしていると涙が口に入ってきた。しょっぱかった。
　ただひたすらにペダルを踏んだ。グランドの曲線をなぞっていく。線をたどって前を見た。曲線の先にパパが立っていた。
「な？」
　なぜだか分かると涙は吹き飛んでしまった。笑っているパパがよく見えた。
　パパに向かって大声で叫びたくなってきた。
「やったよー。僕、ひとりで自転車に乗れたんだー」
　新太郎は追い風に乗ってペダルを踏みつづけていた。

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「一行コンセプト」
　自転車に乗れなかった男の子が、乗れるようになる話。

「構成メモ」
　自転車に乗る練習をする新太郎。すぐに転ぶ。乗りたいのに乗れない。泣きがはいってしまう。そんなときパパが手を離していたことを知る。ひとりで自転車に乗れたのだ。「ひとりで自転車に乗れたぁ」大喜び。

　※テーマのセリフがなるべく浮かないように。

人物設定
　主人公　新太郎　気が小さくてちょっとしたことにも泣きがはいってしまう男の子。
　パパ　　後押ししてくれる人。

起　自転車に乗れない男の子
承　パパの手が離れたとたんに転ぶ
転　泣きだしてしまうが、ひとりで乗れていたことに気づく
結　乗れたよーと絶叫

４時間半
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いつ　春の夕方
どこで　河川敷のグランドで
だれが　新太郎が
なにを　自転車で
どうした　転んだ
理由　補助輪なしでは自転車に乗れないから