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1220 「ひと足早い夏」 短編の転 4/30 まこと |
2005/4/30(土)15:44 - まこと - 2663 hit(s)
「ひと足早い夏」 短編の転 4/30 まこと
透明な波が白い砂を洗っていた。すずやかな波の音がしている。
将矢の視界には、少女の素足も入っていた。
かわいらしい小ぶりの足だった。
少女の視線に気おくれした将矢は、うつむいている。顔を上げることができないでいた。
日焼けした右足がそろそろと下がり、くるっと向きが変わる。色の違う足の裏が見えた。その足がサンゴの混じった粗い砂を踏む。
将矢はとっさに顔を上げていた。
――やばい。
ヘンな奴だと思われたに違いない。困ったなと思った。
乙女チックに、はにかんでいる場合ではない。
少女を引きとめて、ヘンな奴じゃないことを説明しなければならない。
今度こそ声をかけるのだ。
そうしているうちに、少女が歩きはじめた。
髪がそよぐ。つやのある黒髪はやわらかそうだった。それなのに重々しく見えるのは色のせいかもしれない。
ワンピースは身体の線にそっていた。ノースリーブの肩から紺の水着がのぞいている。あれはスクール水着だろう。
ぎゅっとしまった身体をさらに水着が引きしめる。その姿がパッと頭に浮かんできた。
想像したのと寸分たがわない長い脚が交互に踏みだされている。
――と、止めなきゃ。
止めるためには声をかける必要があった。情けないことに、そこでブレーキがかかる。
いっそのこと、腕をつかんで引きとめようかとも考えた。
映画並のかっこいい出会いだけれど、到底ムリだ。
ムリだけれど、このまま行かせたくもない。
仲良くなりたかった。
そのためには、なにがなんでもやりとげるという強い気持ちを必要としていた。
いつの日か、手をつないで海岸を走りたい。
痛そうな砂の上を、しぶきをあげながら、手を取り合い微笑み合いして、ふたりでかけていきたい。
将矢はありったけの勇ましさをかき集めた。
「麻衣ちゃんに、似てるよね」
なかなしの勇気をふりしぼったわりには、間の抜けたことを言ってしまった。似ているなと思っていたせいだろう。
少女の歩みが止まる。
おもわずやったと手を握った。
麻衣ちゃんは、人気急上昇中のアイドルだ。似ていると言われて、わるい気はしないはずだ。
やや間をおいて、少女の頭がしずかに回った。それに合わせて、体の向きも変わる。
ほどなく、とまどった表情があらわれた。
瞳が将矢へ向けられる。
なにかをうったえかけられているのだと感じた。
将矢は、なに? というつもりで首をかたむけた。
ぷっくりした唇が開かれる。
「……似てないもん」
声にはふてた調子が込もっていた。
転 少女が立ち去ろうとする。勇気をふりしぼって話しかける。
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