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1262 「犬と猿と」 短編の前編 6/4 まこと |
2005/6/5(日)01:12 - まこと - 2726 hit(s)
「犬と猿と」 短編の前編 6/4 まこと
会長の友則がミーティング開始を宣言した。学園祭が近づいている。いろいろ取り決めをしなければならない。それなのに役員はおしゃべりに夢中だ。会長の言葉など聞いていない。
友則は副会長の藤沢英子に睨まれていた。なんとかしろと目で催促されている。
「学園祭の看板制作は、毎年恒例と、えー、なってます」
友則が去年の議事録を指でたどっている。
「会長。書記と学年委員長がバカ話してるわよ。止めたら?」
英子がメガネを直した。英子は、友則の幼なじみだった。
背筋をきっちりと伸ばしている。たどたどしい会長よりよっぽど威厳があった。
友則は答えず、続けた。
「今年は、看板制作の他に、チラシ配りもしたいんですが。賛成の人」
議事録から顔を上げた。会長を見ているものなどひとりもいなかった。
会場の机は正方形に並べてある。正面には女子が集まっていた。グループをつくって話しこんでいる。右側では書記と学年委員長が叩き合いをはじめた。左側では男子がいねむりをしている。ミーティング開始から、十分とたっていなかった。
「だれも聞いちゃいないわよ。まぁ、チラシ配りなんて聞いたら、即反対だろうけど」
友則が反論する前に、爆笑が巻き起こった。
「うっそー、やばいじゃん」
学園祭と関係ない話題をしているのは分かっている。友則は注意するのをためらっていた。
「うるさいわよ! そこっ」
藤沢英子が机を叩いて立ち上がった。女子のグループに、ぴったりと人さし指を向けている。
全員の動きが止まった。
音も止んだ。呼吸する音だけは聞こえていた。
「今年の宣伝活動は全員で仮装するから。街頭でパレードよ。そのつもりでいてね」
「はー? なに言ってんのー」
女子のひとりが腕組みをした。
「そうだよ、藤沢。宣伝はチラシ配りって言ったろ、俺――」
「会長のあんたがだらしないから、こういうことになるんでしょ。しっかりしなさいっ。猿」
友則の口があうあうと動く。
「今のはひどいと思いまーす。私ー、会長のチラシ配りに賛成でーす」
腕組みしていた女子も立ち上がった。
「たしかに、ひどい」
書記と学年委員長もうなずいている。
「ぼ、僕も。チラシ配り、賛成です」
いねむり男子もおずおずと手を挙げていた。
「ふん」
英子がおとなしくイスに座った。女子も腰かける。荒れた雰囲気を残したまま、ミーティングは再開された。友則がせき払いをして、去年の議事録に目を落とした。
全員の目は友則に注がれていた。
その後はたいした混乱もなかった。友則の意見がとおり、チラシ配りもすることになった。役員を二チームに分け、看板班とチラシ配り班にした。会長の友則がチラシ班のリーダー、副会長の英子は看板班のリーダーだった。
スムーズに事は運んでいた。そこまでは順調だった。友則は安心して、チラシ班に召集をかけた。
しかしチラシ作成の日、生徒会室には友則の姿しかなかった。
「おっかしいなぁ」
集合時間を三十分も過ぎている。しかたなくひとりでチラシを作りだした。学園祭の日時を上質紙にレタリングしていく。レタリングは得意だった。
ガラガラと音がして、引き戸が開かれた。
「ごっめーん、会長。吹奏楽の練習、どーしても抜けられないのー。えみっちとゆっぴいもなのよー。悪いんだけど……」
細い隙間から女子が頭だけを出していた。英子とやりあった女子だった。
「しょーがねぇなぁ。じゃ、いいよ」
「あとぉ、松村と金子も。クラスの出し物に引っ張られちゃったんだって。ごめんねー。ほんと、申し訳ない。悪い」
最後は両手をこすり合わせていた。
女子が行ってしまうと、友則は上質紙の上でペンを倒した。おしゃれな文字は中ほどで途切れていた。それでもなんとかチラシをレタリング文字で埋めた。チラシは大量に必要だ。印刷をかけなければならなかった。
印刷機があるのは職員室の隣だ。準備室と呼ばれる小部屋にある。友則はチラシを片手に、準備室へ移動した。
準備室は長ひょろかった。窓がひとつもない。印刷機は奥にある。教卓ぐらいの大きさだった。スイッチを入れると、低くモーター音をさせた。友則の好きな音だった。
印刷機はかなり古い型式で、エラーを頻発させる。会長の友則は印刷物を扱うことが多い。復帰させるのは手馴れたものだった。
ガラス面にチラシを載せて読み込ませる。さっきとは違う、金属的なモーター音をさせた。それから、自動的に印刷を開始した。リズミカルに印刷物をはき出していく。
印刷機の表示窓に、枚数のカウントが増えていった。問題なく終了するかと思われた。その直後、印刷機がブルブル震えた。そして静かになった。友則の肩が下がる。
しゃがんで前面パネルを開く。中のドラムを引っ張り出して、ようすを見た。
友則の背後でバチーンと音がした。
英子が引き戸を全開にさせて、立っていた。
よく見ると、すました鼻先に赤いペンキが付いていた。
「印刷機、壊したの?」
友則の顔に、めんどくさげな表情が走った。
「ねぇ、ちょうどいいわ。チラシを配るのは止めなさい。ひとりじゃ大変よ。配るより貼りなさい。枚数少なくてすむし、いいんじゃない?」
「うるせー」
いつになく強気で言った。
「そんだけ印刷したんだもの、充分に貼れるでしょ」
「おまえはいいから、戻って看板やってろ」
英子のメガネが光った。
「お言葉ね。猿」
「いつまでもそのあだ名で呼ぶなよな」
「え、なぁに、猿。猿猿」
「吠えろ、狂犬」
「なんですってぇっ」
お互い、言ったことには必ず言い返した。おかげで、いつまでたっても勝負はつかなかった。
3時間半
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「一行コンセプト」
ムカついていた同級生に、思いがけず励まされ、ホロッとさせられる少年の話。
起(800)
・会長をまったく無視して、議事に関係ない話をしまくる役員たち
・机を叩き、うるさいと怒鳴る女子
・会長がだらしなさすぎだとも
・女子に反発した役員たちは、会長を支持
・議事がすみやかに進行しはじめる
承(1200)
・宣伝活動はチラシ配りに決定していた
・看板作成藩とチラシ藩に分かれている
・主人公がリーダーのチラシ藩はだれも集まってこない
・それぞれ学園祭の準備で忙しいのだという
・ひとりでチラシを印刷をする主人公
・ペンキだらけの女子が様子を見にくる
・チラシ配りは止めて貼リ出すようにと、命令口調の女子
・言い合いに
禁止事項
・時系列順にする。時間逆行禁止。
・重文、複文禁止。
・倒置法禁止。
・体言止め禁止。
・気弱語禁止。比喩禁止。
・読点禁止。
ただし、効果を狙ってのことなら使用可。
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