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1225 「宝物のハンカチ」 短編の起 5/3 まこと |
2005/5/3(火)22:45 - まこと - 2513 hit(s)
「宝物のハンカチ」 短編の起 5/3 まこと
サツキは牛乳を飲み干した。ポケットからハンカチを出し、口を拭う。手も拭くフリをして、ハンカチ越しに和浩を眺めた。
――寝起きの顔もいいなぁ。
ダイニングテーブルをはさんだ向かいがわに、和浩がいた。まばゆいばかりの朝日に包まれている。
サツキはハンカチをいじるフリをしては、寝ぼけ顔を盗み見した。
いつもはキリッとした目鼻だちが、リラックスモードになっている。
和浩は家名をついでくれた。姉、亜紀のお婿さんだ。
斜め座りして、熱心に新聞を読んでいる。
キッチンにはふたりしかいなかった。休日のせいか、みんな朝寝坊をしている。
和浩ががさがさと新聞をたたんんだ。ばさりと横に置く。
「サツキちゃん、朝強いんだな」
「そうかな……。あ、トースト、冷めないうちにどうぞ」
「ん、ありがと」
――ほんとはね、合わせて早起きしてるのよ。
和浩がにっこりした。ばくっとトーストにかじりつく。
サツキは手が止まっていたことに気づいた。あわててトーストの食べかけをちぎりだす。それをしずしずと口に運んだ。
新婚のくせに、姉はまだ起きてこない。こんなすてきな旦那さまをほったらかしにするなんて。姉はおバカさんだと思う。
――あたしなら、うーんと大切にしてあげるのになぁ。
和浩がピンク色の目玉焼きをつついていた。半熟の目玉焼きが好物なのだ。練習してものにした、サツキの自信作だった。
「おう、なんだ。亜紀はどうした。旦那そっちのけで寝てるのか」
ゴルフバックをかついだ父が入ってきた。
「君も君だなぁ、女房はしつけが大事なんだぞ。たたき起こさんかい」
自分のことを差し置いて、父が笑った。
和浩は姿勢を正してうなずいていた。
父がふたたび笑う。すぐに起こせよと言い残し、ゴルフへ出かけていった。
和浩は言いつけを実行に移すことなく、トーストをほおばっている。
「お姉ちゃんてば、お嫁さん失格」
サツキは腕を組んだ。イスにもたれかかる。
「そぉ? すぎた奥さんだと思ってるよ」
ごく自然な感じで言った。サツキ特製のカフェオレに手を伸ばす。
胸に冷たい痛みがあった。頭の奥に、ずしっとした重みを感じる。
そう、和浩は姉のお婿さんなのだ。
どんなにぞんざいな扱いを受けても、姉がいいと思っているのだ。
――わかってるもん。いいんだもん、べつに。
サツキはハンカチを広げた。丁寧に手を拭く。それから、口もとにもっていった。
ハンカチで口もとを覆う。
覆われた口もとを、そっと動かした。音をださずに、ス、キ、としてみる。
和浩は気づかない。カフェオレをおいしそうに飲んでいた。
起:好きな人への気持ちを隠している主人公
2時間
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