〔前の画面〕
〔クリックポイント〕 〔最新の一覧〕
〔全て読んだことにする〕〔全て読んだことにして終了〕 〔終了〕
1226 「宝物のハンカチ」 短編の承 5/4 まこと |
2005/5/4(水)22:48 - まこと - 2552 hit(s)
「宝物のハンカチ」 短編の承 5/4 まこと
サツキも和浩も朝食をたいらげてしまった。向かい合わせの食事タイムは終わりだ。
楽しい時間はあっという間にすぎるものだなと思う。なんとも名残惜しかった。
しかたなく、ごちそうさまをした。のろのろと皿やコップを片付けはじめる。
がちゃがちゃと鳴らしながら、ステンレス製のシンクにおろした。
和浩はどうしているのかと、振り返った。リモコンを持って、隣のリビングにあるテレビをつけた。サツキに背を向ける格好になる。
テレビでは、お天気情報をやっていた。
「晴れマークだ。今日はお天気みたいね」
「んー」
気のない返事だった。
天気を気にするということは出かけてしまうのかもしれない。姉とふたりで出かけていくのだろう。
スポンジを握りしめ、コップや皿を泡だらけにした。体は和浩のほうに向けたまま、ザーザー水を流す。
和浩がテレビの音量を高くした。
邪魔をしてしまったと、あわてる。手早く泡を洗い流し、蛇口をひねった。そうして食器は拭かずに、イスに戻った。
「今度のお天気お姉さん、現役女子大生なんだって」
「ふーん、そう」
和浩が席を立った。グレーのスエットはすらっと縦に長い。うしろ姿になってキッチンをあとにした。
うるさかったのかなと後悔した。なんだか寂しくなる。
和浩はソファーに座るでもなく、うろうろしていた。サイドボードの引出しを開けてのぞいている。
探し物らしい。
サツキはだいぶきを手にした。腰を浮かしてテーブルを拭く。腕を振り払うしぐさで、力を込め拭いていった。
ふと視線を感じて、手を止めた。
テーブルの向かい側に、和浩が立っていた。
サツキはだいぶきを両手で握ると、背を伸ばした。
「お誕生日おめでとうー。ジャーン」
「えっ」
さしだされたピンクの包みには、赤いリボンがしてあった。
思考が止まった。
手からだいぶきがすべり落ちていく。両手が空いて、機械的に差しだしていた。
黙ったままで、包みを受けとる。震える指先で、リボンをとった。
「私ったら、聞きもしないで。これ、開けていいの?」
笑顔の和浩にホッとして、包みをといた。中からピンク色のハンカチが出てくる。サツキ好みの色合いだった。
ふっと疑問がわいた。折り目のはっきりしたハンカチを、箱ごとテーブルに置く。
「お姉ちゃん、でしょ」
すると同封されていたカードを指で示してきた。手書きのものだった。それを、読めというのだろう。
「選ぶの、けっこう、恥ずかしかったぞー。かずひろ……?」
見上げると、鼻の頭をかいていた。
「君のお姉ちゃんはねー、誕生日も覚えてませんでしたー。ぜぇーんぶ、俺がやりました」
たしかに姉は、誕生日プレゼントなんて気のきいたことをするタイプではなかった。
「誕生日も覚えてたし、好みはリサーチしておいたし、自分で買いにいったし。すっごい、マメだろ?」
和浩が店員さんに相談する姿が浮かんできた。まわりを気にしながら選んでくれたのだろう。
プレゼントのお礼を言おうとする。けれどほんとうは、お礼よりも言いたいことがあった。言いたいというより、聞いてもらいたいことだった。
和浩が目を細くして微笑んでいる。プレゼントをもらったサツキより、うれしそうだった。
そんな和浩を困らせる言葉など、言えるはずもなかった。
承 好きだと言いたい気持ちを抑えて接する主人公
3時間
〔ツリー構成〕
-
-
-
-
- ┣【1221】 削除
-
-
-
-
┣【1226】 「宝物のハンカチ」 短編の承 5/4 まこと 2005/5/4(水)22:48 まこと (2828) |
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
〔前の画面〕
〔クリックポイント〕 〔最新の一覧〕
〔全て読んだことにする〕〔全て読んだことにして終了〕 〔終了〕
※ 『クリックポイント』とは一覧上から読み始めた地点を指し、ツリー上の記事を巡回しても、その位置に戻ることができます.