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1228 「ひと足早い夏」 承のセルフリライト 5/9 |
2005/5/8(日)22:35 - まこと - 2590 hit(s)
「ひと足早い夏」 承のセルフリライト 5/9
将矢のほうに、少女の顔が向けられた。ドキッとしたが気づいてはいないらしい。黒々した瞳が通りすぎていく。
――島の子だろうな。
島のことをなんでも知っているに違いなかった。声をかけてみようかなという気になる。そうすれば、帰り道を聞くこともできるだろう。
少女は両手にサンダルを提げていた。はだしで砂の上を歩いている。声をかけるために、将矢も波打ち際へ行ってみることにした。熱い砂の上を大股で跳ねる。
砂が波でぬれているあたりまでそうやって跳ねた。そこで少女に追いついた。歌声が聞こえる。少女の歌声だった。将矢も知っている曲だ。人気グループのメンバー麻衣ちゃんが歌っているの曲だった。将矢もよく歌う。この子も好きなんだなと思った。
鼻歌に変わったメロディーが、風に流されてくる。その風が、少女の髪もなびかせていた。つやのある黒髪で、長さは肩まであった。白のワンピースから、よく焼けた手足が伸びている。褐色の手足をしならせて、粗い砂を踏んでいく。唯一焼けていない足の裏が、左右交互にのぞいていた。
なるべくさわやかに、こんにちはと声をかけることにした。それから、さっそうと名乗って好印象をあたえる。さらに、白い歯をキラッとかがやかせて笑えば言うことなし。完璧だ。将矢は口を開こうとした。そのときだった。
少女が振り返った。
目が見開かれる。二度三度とまばたきをした。濃いめの眉にしわが寄せられる。けれど、驚いたのは将矢だって同じだった。少女は人気のアイドル、麻衣ちゃんにそっくりなのだ。そういえば麻衣ちゃんは沖縄出身のはずだった。
――し、親戚かぁ?
少女の瞳は黒目のほうが多かった。まつげが長い。そして一本一本が太かった。まつげが毛深い、と感心する。健康的な肌も、うすく引きしまったくちびるも、麻衣ちゃんよりかっこいいと思った。
さっきとは違った汗が、全身からぶわっとふき出す。のどが渇いていたのを思い出した。のどちんこが乾燥してしまった感じだ。ぐずぐずしていたら、少女の顔にとまどいが浮かんだ。
――落ち着け。落ち着いて、こんにちはって言うんだ。
つばもかれているのにごくんとした。のどが苦しくって、動作が大げさになってしまう。見られている緊張も手伝って、心臓の働きが早くなった。
――言うぞ。こんにちは、だ。
しかし、口から出たのは声ではなかった。ため息だった。
がっくり肩をおとす。頭も垂らせた。同時にサンゴの混じった砂が目に入っていくる。砂には影ができている。将矢の影だった。サンダルに踏まれたその影は、こころなしか縮こまって見えていた。
3時間
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