よみかく分室課題部屋

1021 １０００字課題、７／３分、Ｎｏ．１４２「悪魔っ子、地上に降りる」（２６００文字）

2004/7/3(土)04:10 - 名無し君２号 - 23953 hit(s)

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Ｎｏ．１４２
題名：悪魔っ子、地上に降りる（２６００文字）

　草木も眠る丑三つ時。正確には午前二時十五分。彼女が地上に降りてきた。
　空には月が浮かんでいた。黄色い満月に小さな点が染みでた。それはどんどん大き
くなって、やがては人のシルエットとなった。ただし背には翼が生えていた。天使の
ような鳥の羽根ではなく、蝙蝠に似た翼だった。
　頭の両端でまとめられたふた房の赤毛が、夜風になびいていた。細い手足、くびれ
た腰、ふくよかな臀部と、体のラインはくっきりしている。近づいてくることで、レ
オタード状の服を身にまとっていることがわかった。あくまで「状」。実質は紐に等
しい。
　ピンヒールで地上に降り立つ。手には鎖を持っていた。先にぶらさがっていたのは
刺の突きでた鉄球で、ごとりとアスファルトに転がった。
　彼女が足を踏みしめているのは、住宅街の路地だった。遠くには街の明かりが見え
る。まわりは静まりかえっていた。
　意外と彼女はあどけない顔つきをしていた。紅い唇を開く。
「がおーっ！」
　吠えた。夜の街に、ということらしい。家の明かりがつきはじめた。
　真っ先に気づいたのは荒巻という男だった。ここの住人ではない。彼は彼女とおな
じ路地にいた。二キロ離れた自分の家へと向かっていたところだった。よれよれのス
ーツ姿で、アルコールの臭いを漂わせていた。
　荒巻はぽかんと口を開けている。酔いと驚きが脳の動きを阻んでいた。だから先に
反応したのは彼女のほうだった。
「――そこな加齢臭」
　荒巻が気づいたときには、彼女は目の前にいた。うお、と荒巻がひと声あげる。水
平だった目線を下げる。のど仏をぐびりと動かした。興奮したからじゃない。欲情す
るにはあからさますぎる。
　荒巻の腰が引ける。左足を下げる。身をひるがえした。
　耳元を過ぎてゆく衝撃。風圧と音圧。前方へと飛んでゆく丸い塊。その後に続いて
ゆく線。自動車事故の当事者になったような音。地響き。
　鎖がぴんと張られ、先端は地面にめりこんでいた。
「逃げちゃだめー」
　ゆっくりと荒巻は振り向く。
「金ならないぞ。ローンしかない。あと二十年もあるんだ」
「んなこた見りゃわかるよ、歯槽膿漏」
「臭いのことはいうなよ。これでも気にしてるんだ」
　荒巻ははぁぁぁとため息をついた。彼女は鼻をつまんだ。
「ふぉんなふぉとふぉり」
　鼻から手を離す。
「そんなことより！　あなたは、この大悪魔、ソレッタ・バレッタさまにえーらーば
ーれーたー！　だから願いを言えー！」
　ぶんぶんと鉄球を振りまわしていた。風圧で荒巻の薄い髪が舞い踊る。
「テンションが高いな。若い」
「四〇〇〇歳を若いというならそうなのだろう。コドモゴコロとしては複雑だが、オ
トメゴコロとしては嬉しいかもしれない」
　いきなり笑い声が降り注いだ。
　荒巻はすぐそばの家を見上げる。二階の窓が開いていて、そこからまだ年若いカッ
プルが覗きこんでいた。表情まではわからない。ソレッタや荒巻を指さしていた。ま
た笑った。控えめな悪意がこもっていた。
　鉄球が飛んだ。女の頭部が爆ぜた。男の表情は固まった。なぜかそのとき、荒巻に
は男が笑っていたことが見えていた。そのまま男の頭部も爆ぜた。きゃりきゃりきゃ
りと鎖が軋んで、鉄球はソレッタの手に戻った。
「ひどいことするな」
「あざ笑うほうが悪い」
「そうか」
　荒巻はもういちど「そうか」と言った。目を伏せる。
「――たしかにそうだな」
「願いを言え。なんでもかなえてあげちゃうから」
　荒巻はソレッタの体を眺めた。視線を感じて、ソレッタはさりげなく腰をねじった
りする。胸をそびやかしたりする。唇を軽く尖らせた。
「じゃあ乳もませて」
「そんなんでいいのん？」
「それ以上やりたくてもいうことを聞いてくれない」
「なるほど。ＥＤ」
　ソレッタは胸を突きだす。荒巻は手を伸ばす。控えめに触れる。やがて大胆になる。
揉みほぐす。もみもみもみ。
　遠くでサイレンが鳴っていた。
「乳首、立ってきたぞ」
「それはただの生理現象」
　あっさり言われ、荒巻は軽く舌打ちする。それはそうと、サイレンが近づいてきて
いた。荒巻は気にしない。ソレッタも気にしない。もみもみもみ。

時間：７時間

読んで欲しいもの（）は読んでの読者感想、→は作者判断：
・悪魔の強引さ、理不尽さ（えへへ）→そこそこ
・オッサンのすっとぼけぶり（えへへ）→あんまり
・グダグダな会話（えへへ）→あんまり

メモ
■一行あらすじ
　地上に降りてきた悪魔っ子が、サラリーマンのオッサンとグダグダトークをかます
話。

■プロット
・満月の夜。街の外れ、住宅街に悪魔っ子登場。適当に姿を描写。
・いい感じにできあがったサラリーマンのオッサン登場。悪魔っ子のエロエロな格好
  を見て危ない人と判断。すぐ逃げる。
・速攻で捕まる。叶えてやるから願いを言えと脅される。
・グダグダな会話。特に内容は無い模様。
・近くの家に住むカップル、悪魔の姿を見て失笑する。すぐさま惨殺される。
・よわよわしく驚き、よわよわしく問いつめるオッサンに、ともかく願いを言わせる
  悪魔っ子。
・オッサン、じゃあ乳を揉ませて、と願う。悪魔、了承。
・乳を揉みつつ終了。最後までグダグダ。


ソレッタ・バレッタ
　悪魔。露出度の高い服にモーニングスターを装備。髪形はツインテール。

荒巻徳男
　サラリーマンのオッサン。妻と娘、息子の四人家族。マイホームのローンに苦しむ
中間管理職。最近、髪が薄くなってきたこととＥＤなのが悩み。

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