よみかく分室課題部屋

994 １０００字課題、６／９分、Ｎｏ．１３８「追いかけっこ」（１８００文字）

2004/6/9(水)23:16 - 名無し君２号 - 8531 hit(s)

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Ｎｏ．１３８
題名：追いかけっこ（１８００文字）

　昼休み。二年生の廊下に小さな悲鳴があがる。
　それにかまっている余裕は、田島恵一にはなかった。目の前に次々とあらわれる人
影を、左右のステップでかわしてゆく。速度はそのまま、全速力のままだ。
　風切り音に混じって、また小さな悲鳴。男の野太い抗議も入っている。
　肩ごしに後ろを見た。
　立ち並ぶ人の群れ。縫うように追いかけてくるひとつの姿。射抜くような視線。迫
る重圧。そして舞いあがっているスカート。思わず恵一は叫ぶ。
「いいのかよ！　風紀委員が、廊下、全力疾走で！」
　彼女は口元を歪める。
「愚問。正義は我にあり、です」
「そういうの、危険思想って、いうんじゃないのかなあ？」
　大男の腋の下をなんとかくぐりぬけた。開ける視界。女の子ふたり組が並んでいた。
体を真横にして、いきおいのままふたりのあいだを通る。体をかすめた。また小さな
悲鳴。もう一度小さな悲鳴があがったのは、おそらく……。
　振り向くまでもなかった。近い。彼女、園部あずさが近づいている。
　どうして園部はおれに構うのか。おれが授業をエスケープしたって、園部には関係
ないだろうに。いくら風紀委員だからって、だ。
　それでも午前中は我慢したんだぞ。
「いつもいつもいつも！　ほっといてくれよ！」
「拒否します」
　もうすぐ階段だ。そこを降りれば、玄関はすぐ。内履きのままで帰ることになるけ
ど……まーいーや。
　ぎょ、と恵一は顔を強ばらせた。
　ひときわ大きな巨体。クラスメイトの加藤だ。あちらもぎょっと顔を強ばらせてい
る。どんどん近づいてゆく。恵一が避けるほうへ、加藤も避ける。こんなときだけ動
きは素速い。右、左、右、左。
　ぶつかる。しかし背中の重圧は止まることを許してくれない。
「カトちゃん！　倒れろ！」
　ぶきゃっ、と声をあげて、巨体が倒れた。それはちょうどぶつかる寸前――恵一は
踏み切る。
　眼下に、カトちゃんの肉体。
　つんのめりながら着地した。手で廊下をはじき、すぐそばの階段へと体を落としこ
む。そのとき、恵一は横目で見てしまった。園部が、横たわる加藤を踏みつけて乗り
こえたところを。
「ヒデエ」
　転がるように階段を駆け下りた。園部は全段飛ばしで踊り場に舞い降りてきた。走
って逃げる。背後に舞い降りる音。走って逃げる。

時間：３時間

読んで欲しいもの（）は読んでの読者感想、→は作者判断：
・疾走感（どきどき）→うーん
・主人公の焦燥感（どきどき）→駄目
・追跡者の圧迫感（どきどき）→いまいち

〔ツリー構成〕

【550】１０００字課題根っこ 2003/8/22(金)05:10 名無し君２号 (181) ≪